キャリア・教育

2026.05.08 13:30

一流のプロフェッショナル その三つの条件:田坂広志の深き思索静かな気づき

筆者は75歳を迎えたが、いまだ一人のプロフェッショナルとして修行中の身である。それでも、幸いなことに、この人生において、「一流のプロフェッショナル」と呼ぶべき人物に、数多く巡り会ってきた。そして、これらの人物には、その「心の姿勢」に、見事なほど共通の条件があることを感じてきた。ここでは、そのことを「三つの条件」として語ろう。

第一の条件は、「危機感を持つべきときに、冷静に、具体的な危機感を持てる」ことである。

逆に言えば、敗れ去る人材は、例外なく、その危機感を持てない。どれほどの危機が目の前にあっても、心の中では「自分は大丈夫だろう」「自分は何とかなるだろう」といった「根拠の無い楽観」を抱いている。しかし、実は、その心の背後には、「危機を直視することを恐れ、目を背ける深層意識」があるのだが、自身は、そのことに気がつかない。

昔から「敵は我に在り」という言葉が語られるが、敗れ去る人材の真の敵は「競争相手」や「社会状況」ではない。実は、自身の心の中の「甘え」や「甘さ」こそが、最大の敵に他ならない。

筆者の預かる学園の卒業生に、世界で活躍している著名な写真家、レスリー・キーがいるが、以前、彼と対談をしたとき、真顔で、こう語っていた。

「いま、若い写真家が、次々と新しい技術を使ってくるので、追いつくのが大変ですよ…」

この危機感こそが、彼が一流の世界をトップランナーとして走り続けられる理由であろう。

第二の条件は、「誰もが認める実力と実績があっても、どこまでも謙虚さを忘れない」ことである。

メジャーリーグで歴史に残る記録を達成したイチロー選手が、かつて日本でプレーをしていた頃、ある試合で「5打数・5安打」を記録した。その試合後、記者が「イチローさん、今日は絶好調ですね」と訊くと、イチロー選手は、次のように答えた。

「たしかに、結果としては5打数・5安打ですが、3打席目のヒットは、ヒットになってはいけない打撃でした。結果としてヒットになりましたが、あれは、自分では納得できない打撃フォームでした。そして、自分には、まだ守備に課題があります」

実は、イチロー選手は、打撃の素晴らしさだけでなく、「レーザービーム返球」と呼ばれる守備の見事さもあるのだが、それでも、この発言である。

どれほど実力を身につけ、どれほど実績を挙げても、決して慢心せず、どこまでも謙虚な姿勢で道を究めようとすること。それもまた、分野を問わず、一流のプロフェッショナルの条件であろう。

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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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