では、なぜ我々は、その「謙虚さ」を身につけることができないのか。
そのことを考えるとき、かつて筆者が臨床心理学者の河合隼雄氏と対談をしたとき、氏が語った鋭い人間観察の言葉が心に浮かぶ。
「人間は、自分に本当の自信が無いと、謙虚になれないのですよ」
然り。そして、この「自信の無さ→謙虚になれない→実力が高まらない→自信が身につかない→謙虚になれない」という「悪循環」こそが、一流のプロフェッショナルとアマチュアの実力の差が、ますます大きく開いていく、根本的な理由であろう。
第三の条件は、「一流の世界を見続け、無意識に一流の基準を染み込ませている」ことである。
かつて筆者は、若き日に、ある高名な画家に、「なぜ、パリでは、あれほど多くの優れた画家が育つのですか?」と訊いたことがある。
その問いに対し、筆者が予想していた答えは、「パリには、優れた美術学校が数多くあるからだよ」であったが、予想外の答えが返ってきた。
「パリには、本物の絵が、数多くあるからだよ」
日々、一流のものを見続け、心の中に、その一流の基準を焼き付けること。それが、一流のプロフェッショナルをめざすための、絶対の条件であろう。
もとより、それは美術の世界だけではない。近年、多くのサッカー選手が欧州のサッカーリーグでプレーをし、世界レベルの実力を身につけて帰国するのも、単に「良いコーチやトレーナーがいる」からではない。まさに、この「一流の世界の基準を身につける」ことができるからであろう。
されば、もし我々が、一流のプロフェッショナルを目指すならば、まず最初に、「謙虚」な心で職場を見渡すべきであろう。もしそれが、「アマチュア的な仕事」で通用してしまう職場であるならば、そして、自分が、その「楽さ」に慣れてしまっているならば、深い「危機感」を抱くべきであろう。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国から1万名を超える経営者が集う田坂塾・塾長。著書は『人類の未来を語る』 『教養を磨く』 など、国内・海外で150冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp


