サイエンス

2026.05.05 18:00

なぜヒトには「指紋」があるのか? 3つの仮説から読み解く進化の謎

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スマートフォンの画面に指先を当ててロックを解除したり、コーヒーカップをつかんだり、布地のサンプルに親指を滑らせて柔らかさを確かめたり──こうした瞬間の一つ一つに、進化の産み出した巧妙な仕組みが働いている。

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人間に指紋がある理由を問われた多くの人は、指紋による個人識別について曖昧に語るだろう。犯罪現場の鑑識活動に言及するかもしれない。

しかしその真実は、刑事ドラマでお馴染みのどんな答えよりはるかに奇妙で、複雑で、格段に魅力的なものだ。指紋には、物理学、胎児期の皮膚、古代の木々、そして水分の調節機構が関わっており、研究者たちは今ようやく、その全容を解明し始めたところだ。

そもそも指紋とは何か

指紋とは、生物学者が「皮膚隆線」と呼ぶ、皮膚表面のパターンの一種だ。皮膚の隆起と溝が連続して平行に走るこれらの線は、指先だけでなく、手のひら、足指、足裏にも見られる。

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これらのパターンを科学的に研究する分野は「皮膚紋理学」というわかりやすい名称で呼ばれており、指紋のパターンは以下の3つのタイプに大別される。

1. 弓状紋
2. 蹄状紋
3. 渦状紋

指紋についてあまり知られていない事実だが、すべての哺乳類のうち、指紋を持つのは霊長類とコアラだけだ。

これは、驚くべき手がかりだ。コアラと霊長類は、近い共通祖先を持たない。すなわち、指紋はそれぞれの系統で独立して進化したことになり、生物学ではこれを「収斂進化」と呼ぶ。異なる出発点から、自然が同じ解決策にたどり着く時、それはその解決策が真に有用であるという強力なシグナルとなる。問題は、具体的に何のために有用なのか、ということだ。

その問いに対する答えは、予想以上に意見が分かれている。現在では主に3つの仮説が提唱されているが、実際のところ、それら3つのすべてが関与している可能性が高い。たった一つの原因によって進化が生じることはまずないからだ。

指紋はどのように形成されるのか

指紋が存在する理由へ進む前に、まずは、指紋が形成される過程について見てみよう。そのメカニズムは、実に驚くべきものだからだ。

指紋の隆線は、妊娠10週目頃に形成され始める。この時期、胎児の手はまだ小さく、膨らみを持つ手の原型にすぎない。指先に生じるこれらの一時的な膨らみは、掌側パッド(volar pad)と呼ばれ、指紋の形成に極めて重要な役割を果たす。

これらが膨張し、その後で退縮するが、その過程で、表皮の薄い基底細胞層(表皮の最深部の層)に物理的刺激(mechanical stress)が作用し、この刺激が、隆線の出現を引き起こしているとみられている。

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翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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