3つ目の仮説は、おそらく3つの中で最も生態学的なものだ。指紋を持つ生物種の特徴を考えてみよう。指紋は、複雑で立体的な樹上環境を日常的に移動する霊長類に見られる。そして、同様の行動をとるコアラにも見られる。比較すると、平坦で隆線のない指腹を持つ種は、地上で生活するか、「不規則な形状の枝をつかんでいる時間」が短い傾向にある。
この「移動仮説」は、隆線が主に木々を移動する際の把持の信頼性を高めるために進化したとするものだ。これは、隆線が単に手の精密作業のためのものであるだけでなく、湾曲し、粗く、濡れていて、樹皮に覆われ、予測不能に変化する木の表面を伝い、全身を使って移動するためのものであったことを意味する。
この仮説は、把持仮説と矛盾しない。実際のところ、水分の調節機構は、物体の操作と同様に、物体を登る動作においても役立つはずだ。またこの仮説は、隆線が指先だけでなく、つま先や足裏にも見られる理由も説明している。樹上の移動には、四肢すべてが動員されるからだ。
これら3つの仮説を総合すると、指紋は、霊長類の祖先が暮らした複雑な樹上の世界において、「登る」「つかむ」「感じる」を同時にまとめて向上させた適応特性であったという全体像が浮かび上がる。
進化が想定していなかった指紋の用途
進化は、木々、果実、そして把持のために指紋を形成した。押印や生体認証スキャナー、犯罪者データベースなどに使われることまでは予期していなかったが、現状ではそうなっている。
胎内における発達プロセスで形成される、一人として同じもののない指紋の独自性は、法医学的に極めて有用であることが判明している。そのパターンは、生涯を通じて安定しており、表面的な損傷によって変化せず、また十分に多様であるため、記録に残る限り、他人と指紋が完全に一致した人間は存在しない。一卵性双生児でさえも例外ではない。
樹上生活に適応するために生まれたものが、偶然にも、これまでに発見された中で最も信頼性の高い個人識別システムの一つとなったのだ。
進化とはそういうものだ。目の前の環境に合わせて形成されるが、その産物は時として、予想もしない形で役に立つ。中新世の森林で、イチジクの木に登るために形成された構造が、今やスマートフォンのロック解除に用いられている。
指先に刻まれた隆線は、個人の識別という概念よりも古く、ヒトという種よりも古い。それらは、あなたを「あなた」として識別するために作られたわけではない。ただ偶然にも、完璧にその役割を果たしているのだ。


