なぜ戦時下のウクライナで治験するのか━━ポーランド国境で見た“熱狂”
また、今回調達した1億ドルはウクライナとポーランドでの臨床試験にも使われる。戦争が続く地域で、なぜあえて治験を行うのだろうか。
「もともとウクライナやポーランドは、臨床試験が非常に活発な国だったんです。ロシア・ウクライナ情勢が悪化する前は、実際にロシアとウクライナで治験を行っていました」と前田氏は振り返る。
いったんは中断を余儀なくされたが、状況は変わった。
ウクライナ政府から「がん治療の臨床試験をぜひ行ってほしい」との要請があり、再び協議が始まったという。
「戦時中であっても、がん患者さんはいらっしゃいますし、治療が必要です。今はポーランドとの国境に比較的近いエリアで臨床試験を行っています」

EUの一員であるポーランドは、規制当局の手続きもしっかりしている国だ。一方で、新しい治療の保険償還が遅れがちで、いわゆるドラッグラグ(海外で使える薬が国内ではまだ使えない時間差)が大きいとされる。
「どの国も臨床試験の手順は基本的には同じですが、どれだけ新しい治療へアクセスできるかという点では差があります。ウクライナやポーランドでは、最新の治療が公的保険でカバーされていないケースも多く、臨床試験に参加する患者さんの比率が非常に高くなるんです」
小玉氏と前田氏は、試験開始前にポーランドとウクライナの国境まで足を運んだ。
現地の医師たちと顔を合わせ、医療機器のトレーニングや試験デザインの確認を行うためだ。

「ポーランドとウクライナの医師や研究者を集めてインベスティゲーターミーティング(治験担当医の会議)を開いたのですが、ウクライナからだけで40名を超える先生が参加してくださいました。あんな熱気は見たことがなかったですね」と前田氏は語る。
戦時下で医療インフラが脆弱になる中で、新しい治療にアクセスできる臨床試験は、患者と医師にとって貴重な選択肢だろう。
「当然、非常に大変な状況にある国ですが、それでも『がん患者さんのために新しい治療を試したい』という強い思いを持った先生方が、これだけ集まってくださっている。そうした熱量のある地域でこそ、この技術の真価が問われるのだと思います」
一方で、アメリカでは膵臓がんを対象にした臨床試験の準備が進む。
ウクライナでの熱狂と、米国の大学病院での膵臓がんプロトコル─光免疫療法は、いまや世界のさまざまな“フロンティア”を巻き込みながら進化しようとしている。
「日本で初めて実用化された治療だからこそ、日本だけで完結させるのではなく、世界中の先生方と一緒に育てていきたい。今回の資金調達でいただいた期待に応えられるかどうかは、まさにこれからの数年で決まると思っています」(前田氏)
多額の資金と、国境を越えて集まる医師や研究者たちの熱狂。その両方に支えられながら、光免疫療法は次のステージを目指している。

前田陽(まえだ・みなみ)◎Rakuten Medical, Inc. プレジデント。東京大学公共政策大学院修了後、マッキンゼー·アンド·カンパニー ジャパン、首相官邸、McKinsey South Africa、厚生労働省などを経て2017年11月楽天メディカル入社、2024年8月より現職。
小玉裕之(こだま・ひろゆき)◎楽天メディカル株式会社代表取締役社長。東京大学大学院博士課程(理学)修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニー ジャパン、京都大学アイセムス、三井物産などを経て2019年4月に楽天メディカル入社、2024年8月より現職。
※参考:光免疫療法に関する動画(芹澤氏提供)


