ヘルスケア

2026.05.13 13:15

楽天・三木谷浩史が『がん光免疫療法』に私財数百億円を投じる理由━━亡き父の言葉と、ある医師との邂逅

楽天グループ創業者、Rakuten Medical, Inc. 副会長兼CEO 三木谷浩史氏

「研究の早い段階で蓋をしてしまうと、医療イノベーションが促進されない。むしろ、世界中の研究者にIR700という重要な要素のひとつを自由に使ってもらい、そこから生まれる知見を取り込みながら光免疫療法を進化させていくほうが、がんで苦しむ患者さんにとってもプラスになるはずです」

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三木谷が目指すのは、従来型の「メガファーマ」とは異なるモデルだ。

楽天メディカルは、独占知財とオープンな供給を両立させることで、いわばOS部分を担い、世界中の研究者や企業がその上でアプリケーション(新たな適応や治療プロトコル)を開発していく。AIの世界で、オープンソースの基盤の上に無数のプロジェクトが立ち上がるのに近いイメージかもしれない。

楽天メディカルが「アルミノックス(R)プラットフォーム」と名付けた技術基盤をもとに築く未来には、単に薬と医療機器を売る企業ではなく、「コミュニティをつくる」企業になるという意思も込められているのだろう。

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私財数百億という賭け─亡き父の言葉と、ライフワーク

ただ、この規模の挑戦には莫大な資金が必要だ。

シリーズFラウンドまで重ねた資金調達のなかで、三木谷は楽天グループとしてだけでなく、個人としても継続的に出資してきた。その総額は本人の口からはっきりとした数字は聞けなかったが、「数百億円」ということだった。

「一種のフィランソロフィー(社会貢献)ですよ」と、三木谷は、8年前のインタビューで聞いた言葉を今回も使った。

「金は天下の回りものだし、どう儲けるかと同じくらい、どう使うかが重要だと思っているんです。命に関わる事業はセンシティブですけど、少しでも助かる人が増えるなら、そこに使えばいいじゃないかと」

ITや金融、通信など、これまで彼自身が手がけてきた事業と違い、医療の世界は圧倒的に時間がかかる。

治験、安全性評価、各国での承認プロセス─どれも一朝一夕には進まない。「ITビジネスの感覚からすると、本当に時間がかかる」と苦笑しつつも、彼はこの事業を「ライフワーク」と位置づける。

最後に、こんな質問を投げかけた。

もし父が今の状況を見たら、何と言っただろうか。

経済学者として日本金融学会会長も務めた三木谷良一氏は、息子の人生の節目ごとに相談に乗り、示唆を与えてきた存在だった。銀行を辞める決断、楽天創業、TBS買収の試み─そのたびに神戸の実家を訪ね、意見を求めてきたという。

「もし父が生きていたら……、どうですかね。『ようやっとるやないか』と言ってくれるかな。生前から『企業は人類の発展に資する仕事をすべきだ』と言っていた人なので」

がんで命を落とす人は、今この瞬間も世界中で増え続けている。

光免疫療法でその数をどこまで減らせるのか、現時点で断言できる人はいない。だが、亡き父の言葉を胸に、一人の実業家が「まだ二合目」と語る山を、多くの医師や研究者と登り続けていることだけは確かだ。

三木谷浩史(みきたに・ひろし)◎Rakuten Medical, Inc. 副会長兼CEO。楽天グループ創業者、代表取締役会長兼社長。新経済連盟代表理事。一橋大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。1993 年ハーバード大学にてMBA 取得。日本興業銀行退職後、1996 年クリムゾングループを設立。楽天グループとして70 以上のサービスを提供する。




※参考:光免疫療法に関する動画(芹澤氏提供)

光免疫療法と生きる。小林久隆氏公式 All about NIR-Photoimmunotherapy

東京医大|光免疫療法|頭頸部がん(中咽頭がん)治療の現場・施術記録

取材・文=芹澤健介 写真=曽川拓哉

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