昨年、十三回忌を迎えた。
2013年に経済学者・三木谷良一氏が膵臓がんで亡くなってから13年。その息子は、父が亡くなる数カ月前に「光でがんを消す」という光免疫療法と出会い、それ以来、数百億円規模の私財を投じてきた。楽天グループを率いる三木谷浩史氏だ。いまはバイオベンチャー・楽天メディカルのCEOとして、「がん克服は自分のライフワークだ」と語る。稀代の実業家が、新しいがん治療法に人生を賭ける理由とは─。
父の死と、「光でがんを消す」治療との出会い
三木谷浩史が「光免疫療法」と出会ったのは、父・良一(享年83)を膵臓がんで亡くした年だった。
余命を告げられてからの約半年、彼は世界中の論文を読み漁り、あらゆる治療法を求めて海外の名だたる病院を巡った。化学療法、重粒子線、放射性同位元素を用いた最先端の治療─できることはほとんど試した。それでも、膵臓がんを治す決定打は見つからなかった。
「何かあるはずだ、絶対にもっといい治療法があるはずだと思っていた」と、三木谷は当時を振り返る。
しかし現実には、「今のところ、膵臓がんに有効な治療法はない」という答えを、世界中の医療機関から突きつけられることになった。医師によっては「もう何もせず、自然に任せたほうがご本人のためだ」と告げる者もいた。

そんななかで紹介されたのが、アメリカ国立衛生研究所・NIHでがん治療の研究をしていた小林久隆医師だった。
互いに多忙を極める2人が最初に会った場所は東京・ホテルオークラのステーキ店。ちょうど帰国していた小林が「小一時間なら対応できる」と、ノートPCを開いてプレゼンテーションを始めた。示されたのは、特定の抗体でがん細胞を「マーキング」し、そこに近赤外光を当てることで、選択的にがんだけを壊死させるという聞いたことのない治療コンセプトだった。

一通り説明を聞き終えた三木谷は、こう漏らしたという。
「正直、おもしろくないほど簡単に思えますね」
がん細胞を標的とする抗体に光感受性物質を結合させ、特定の波長の光でピンポイントに破壊する。動物実験で示されたデータとメカニズムを見て、「これは人間でも効かないはずがない」と確信に近い感覚を覚えた。「マウスでうまくいっているのに、人間で効かない理由が合理的に説明できない」と。
その数日後、三木谷はシンガポールに飛んでいた小林と連絡を取った。
「帰りに東京で会えませんか」
今度は自らが組んだ医師団も同席させ、より突っ込んだ質疑を行った。膵臓がんへの適応の可能性、副作用、他の治療との組み合わせ─質問は素人の域を超え、研究者同士のディスカッションに近いものになっていったという。
すでに末期の父にはタイミング的に間に合わない。それでも、この治療法はがん治療の風景を変え得る。そう直感したところから、三木谷の「ライフワーク」が始まることになる。この時点で三木谷は600万ドル以上(当時のレートで約7〜8億円)の資金を提供し、研究は最初のヒトでの治験に漕ぎつけた。
小林医師も当時を振り返って、こう言っている。
「あの資金のおかげでその後、研究は一気に5段6段飛び越えて進んだんです。でも何より、我々の研究を三木谷さんに信用していただけたことがうれしかった」



