家とは、人が生まれて死ねる場所
北野:建設業界は何を捨てて、何を取り入れるべきですか。
菱田:地元工務店が生き残るには、地域の素材と手仕事の美しさに根差すしかありません。逆にハウスメーカーはもっとテクノロジーに振り切ればいい。そこを曖昧にしてお互いのマネをするから苦しくなるんです。
既製品を捨て、自然素材を手にする設計や施工の考え方を「HUIZEN(ハウゼン)」というサービスで少しずつ外に広げ始めています。そもそも工務店という仕事は属人性が高い。でも、そこに蓄積された考え方や型、経営や職人教育のあり方は、もっと広く共有できる可能性があると思います。
北野:自らの知識を共有知にする。
菱田:そうです。菱田工務店で定義してきたフォーマットを、できるだけ属人性を取り払って、誰もが学び、使えるものとして残していく。会社をそのまま拡大するより、思想や型をスケールさせていくほうが、今の自分には自然な経営のあり方だと感じます。
北野:本質的な意味で「家」って何でしょう。
菱田:人が育って、暮らして、最後までいられる場所。それが住宅だと思います。世界的に有名な建築家は大きな公共建築で評価されることが多いですが、人が生まれて死ねる場所のほうが、もっと評価されていい。自分はそこをやりたいですね。
北野:目の前に進路に悩む15歳の子がいて「将来、菱田さんのようになりたい」と言ったら?
菱田:旅をして、いろんな美意識や関係性を見て、多くの人に会って誠実に向き合おう、と伝えたいです。自分は「会うべき人には必ず会う」と信じています。ただ、その出会いを生かせるかは本人次第。縁を簡単に切らないこと。会った人を忘れないこと。出会いに感謝して積み重ねていくこと。それが、最高の人生をつくってくれるはずです。

菱田昌平◎1978年、長野県生まれ。中学校に3カ月通ったのち不登校になり、リンゴ農家、サッシ業者などを経て大工の道へ進む。ベルギーでの修業を通じてヨーロッパの建築思想や素材観に触れた。26歳で独立し、2012年に菱田工務店を創業。伝統的な木造建築の技術を基盤に、設計から施工、家具製作までを一貫して手がける。地域材の活用、「墨付け」や「手刻み」といった職人文化の継承を重視しながら、現代の生活様式に応じた住空間を提案している。25年、斧鉞(ふえつ)株式会社を設立。


