経済・社会

2026.04.28 11:45

自衛隊員の国歌斉唱問題、批判するだけでは何も進歩しない

Josiah.S - stock.adobe.com

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4月12日に開かれた自民党大会で、陸上自衛隊員が制服を着て国歌を歌った。自衛隊法61条は自衛隊員の政治的行為を制限しているが、防衛省や自民党は「問題がない」としている。ただ、複数の防衛省、自衛隊関係者は「自衛隊という公の機関を、自民党という私的組織のために使った。自衛隊の政治的中立性について誤解を招く行為だった」と指摘している。

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高市早苗首相(党総裁)は大会で「日本人の手による自主的な憲法改正は党是だ。時は来た」と語った。防衛省関係者の1人は「自衛隊員の国家斉唱で、憲法9条の改正に逆風が吹くのはわかりきっていたはず。センスがないと言われても仕方がない」と語る。この関係者は「センスがない」として、党大会で陸自隊員と握手をした小泉進次郎防衛相の名前も挙げた。関係者は「事前に報告を受けていなかったそうだが、党大会で制服を着て国家斉唱している自衛隊員を見て、何も感じなかったのだろうか」と指摘する。

小泉氏は防衛相就任以来、自衛隊員に寄り添おうとする姿勢が好感を呼んでいる。 小泉氏は21日までに、自身のX(旧ツイッター)に海上幕僚長とオーストラリア海軍幹部の写真を投稿し、「軍人同士の友情」と表現した。自衛隊元幹部は「自衛隊員のアイデンティティーを気遣ったのだろう」と語る。

小泉氏としてみれば、党大会での陸自隊員との握手も、慰労と激励の意味を込めたのかもしれないが、防衛相として軽すぎる。同じ防衛相経験者の木原稔官房長官は15日の衆院内閣委員会で「法律(自衛隊法)に違反することと、政治的に誤解を招くようなことがないかは別問題だ。その点はしっかりと反省すべきだと考えている」と語った。

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前出の防衛省関係者は「日本では、政治と自衛隊の距離の取り方に不慣れな関係者が多すぎる」と語る。日本では戦後、自衛隊制服組の国会答弁を事実上封じてきた。国会で安全保障問題が議論される際には、憲法に違反しているかどうかが問題になり、自衛隊の具体的な運用による抑止効果などの議論は脇に置かれてきた。自衛隊員も選挙に関する行動基準を定めた手引書は多いが、今回話題になった政党大会への参加など、普段の政治活動についての基準は曖昧なままだという。

「軍人も民主主義社会の構成員の一人」として、一般社会とうまく融合している米国などとは対照的だ。元海上自衛隊海将補で徳島文理大総合政策学部の高橋孝途教授(国際政治・安全保障論)によれば、米国では軍人は制服を着ていなければ政党大会に出ても構わない。「個人的な見解」と断れば、メディアに政治家についての論評も投稿できる。一般社会も航空機への優先搭乗など軍人に敬意を払う。ただ、軍人も制服を着れば、全国民に対する奉仕者としての姿勢を貫く。

トランプ米大統領とヘグセス国防長官は昨年9月、米バージニア州・クアンティコの米海兵隊基地に米軍の将軍や提督を集め、民主党をこき下ろす極めて政治的な演説をぶった。米軍には共和党支持者が多いとされるが、この席に集められた将軍や提督たちは硬い表情を崩さなかった。政治的な中立性を常に意識しているからこそ、なせる業だろう。

高橋氏は「今回を契機に、自衛官が政治に関心を持つことに従来以上に臆病になったり、自衛官を政治から遠ざけるような規則が作られたりしてはいけない。むしろ、米軍のように、自衛隊の公的な影響力を政治的目的に利用しないことを明確にしつつ、同時に自衛官が民主主義国家の国民の一人として健全に政治に関われる制度設計にしていくべきだ。それが、健全な政軍関係につながっていく」と語った。

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文=牧野愛博

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