説明すべきことはまだある。オオカミやネコ、チンパンジーといった哺乳類に広く見られるように、立毛反射は、社会的・敵対的シグナルを送るための働きも持つ。動物は、毛を逆立てると実際よりも大きく見える。毛を逆立てることは、体毛そのものと同じくらい古くから存在する「はったり」だ。そして、この「はったり」という機能があったからこそ、この仕組みは、進化した後でもなくならなかったと考えられる。
しかし、より重要なのは、シュー率いる研究チームが論じた、体温調節機能と幹細胞のメカニズムだ。体をより大きく見せる機能は確かに役立つが、断熱性を高めて体をより暖かく保てるようにすることの方が、生き残り戦略としてはずっと有益だからだ。
鳥肌は、太古の名残りにすぎないのか
人類の祖先は、約150万年から200万年前に体毛のほとんどを失った。その理由としては、獲物が疲れて動けなくなるまで追い続ける持久的狩猟においては、体の熱を外に逃がす熱放散の働きを高めることが不可欠だったというのが有力な説だ。アフリカのサバンナで暮らしていた初期ヒト属は、持続的狩猟を行なっていたことがわかっている。
理由が何であれ、私たちヒトは体毛を失った。そして、鳥肌が立つ仕組みは残ったものの、その元々の目的は現在、もはや意味を持たない。体毛はまばらにしか生えておらず、寒空の下、じっと立っている時に熱を封じ込めるレイヤーとしての役割は果たさなくなった。同じように、毛を逆立てて体を大きく見せる誇示的な働きも、毛のない霊長類だと見透かす相手に対しては、全く意味をなさない。
こうした理由があるため、生物学者に言わせれば、鳥肌は「退化した特性」、つまりは進化の痕跡の一つということになる。チャールズ・ダーウィン自身も1872年に、ヒトが鳥肌を立てるのは、哺乳類が共通の祖先を持つ証拠だと指摘していた。立毛筋は残り、交感神経の配線も損なわれず、反射作用は今なお発火し続けている。
というのも、鳥肌が立つ仕組みを維持しても、体には事実上、何の負担もかからないからだ。自然選択は、問題を起こさないのであれば、そのシステムをわざわざ取り除くようなことはしない傾向がある。
ところが、ハーバード大学が2020年に発表した研究結果によって、「鳥肌は退化した痕跡的な特性」という通説が揺らいだ。神経・筋肉・幹細胞からなる3系統ユニットという基礎的な構造は、規模こそ小さくなったものの、ヒトに残されている。そして、この存在によって、生物学者が引き続き取り組む疑問が生じた──「この仕組みは今も、何らかの役に立っているのか」という疑問だ。
進化は鳥肌を、新たなツールとして転用した
では、心に響く音楽を耳にした時に鳥肌が立つのはなぜなのだろうか。これは、取るに足らない疑問などではない。現代人は、音楽を聴いたり、映画を観たり、畏敬の念を抱いたり、思いがけない美しさや、得体の知れないことに遭遇したりすると、間違いなく鳥肌を立てるが、こうした刺激はどれもみな、寒さや身体的な脅威とは無関係だ。ということで、どこかの時点で、なんらかの配線が交差したのだ。
では、何が起こったのか。早い時点でわかった最も厳密なエビデンスのいくつかは、2011年に『Biological Psychology』で発表された研究で示されている。対物光学測定システムを用いて調査したところ、音楽や映画から、感情を激しく動かす聴覚刺激を受けると、目に見える立毛反射が確実に起こることがわかった。
生理学的な反応が起きていることは明白だった。相動的な皮膚電気反応(phasic electrodermal activity:発現までの時間が非常に短い急速な変化)が上昇し、呼吸が深まり、交感神経が完全に覚醒反応を示した。冷たい外気に触れた際に鳥肌を立てるまさにその仕組みそのものが、美しい映画音楽にも反応して発火したのだ。


