サイエンス

2026.04.29 18:00

人は感動した時にも「鳥肌」が立つのはなぜか? 進化生物学者が解説

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最近、素晴らしい音楽を耳にしてゾクっとした時のことを思い出してほしい。メロディが最高潮に達する瞬間、神経系の奥深くで何かが起こり、前腕にいきなり細かい鳥肌が立ったかもしれない。そして、「今、いったい何が起きたんだ?」と不思議に思った人もいるだろう。

進化生物学者である著者は、多くの人よりも、この疑問に強い関心を寄せている。というのもほとんどの人は、鳥肌が立つ現象には、何億年も前から存在する反射作用が関係していることを知らないからだ。

鳥肌と、古代からの反射作用に関係があることが明らかになったのは、ハーバード大学が実施した幹細胞に関する研究のおかげだ。この研究によって、皮膚の生物学に関して考えられてきた常識が書き換えられた。進化が、一つのツールの使用を諦めても、それを完全に放棄しなかった場合にどういうことが起きるのか――鳥肌がその好例である理由を説明していこう。

鳥肌が立つ仕組み

鳥肌を理解するには、まずは、驚くほど精密な解剖学的構造から始めなくてはならない。その組織とは「立毛筋」だ。極めて小さく、裸眼で見て取ることはほとんどできないが、皮膚の下にある一つ一つの毛包に直結している筋肉だ。

寒さやストレスを感じると、交感神経系にスイッチが入り、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)という神経伝達物質が放出されて、立毛筋が収縮する。すると毛包が立ち上がり、私たちがよく知る「鳥肌」が立つ。少なくとも今までは、そう考えられてきた。

鳥肌が立つ仕組みについての生物学者の考えをがらりと変えたのは、ハーバード大学で幹細胞と再生生物学を研究するヤチェ・シューが率いる研究チームが、2020年に生物学ジャーナル『Cell』で発表した研究論文だ。この研究では、高分解能電子顕微鏡と、精密な遺伝子技術が用いられ、鳥肌が立つ際に「機械的なレバー」の役割を果たしているのは立毛筋だけではないことが明らかになった。立毛筋はむしろ、密に一体化された生物学的ユニットの一部だったようだ。

鳥肌が立つ仕組みには、次の3つの細胞タイプが関与している:

・毛包
・立毛筋
・上記の2つを制御する交感神経

注目すべきは、この交感神経線維は、ただ筋肉に巻き付いているだけではないという点だ。神経はさらに先へと伸び、毛包の膨らんだ部分へと直に到達している。そしてそこには、毛包幹細胞が存在している。

研究者によると、交感神経線維はそうした幹細胞と結びつき、シナプス(神経細胞の接合部)のような結合を形成するという。これにより、ノルエピネフリンが放出され、鳥肌が起きるだけでなく、幹細胞の活動そのものも調整される。要するに、寒さを感じると、毛が立つだけでなく、新しい毛を生やし始めるよう、体に対して指示も出されるということだ。

進化が作り出す最善の解決策が常にそうであるように、この仕組みは実に精密だ。鳥肌は、直感的かつ短期的な反応で、寒さを感じるとすぐさま起こる。しかし、寒さに長くさらされているうちに、同じ交感神経シグナルは、もっと遠くまで到達する。つまり、眠っている幹細胞を目覚めさせ、毛包の再生を促進するのだ。

その意味では、鳥肌は、皮膚の下で起こっている、より深い生物学的なやりとりのうち、目で確認できるわずかな部分にすぎない。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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