スターの伝記映画は巨大ビジネスに
過去10年で、エルビス・プレスリー、エルトン・ジョン、ボブ・マーリー、ボブ・ディランなど、10人を超えるアーティストの生涯が映画化されてきた。ただし、こうした作品が必ずしも巨額の収入につながるわけではない。アーティスト側の標準的な契約は、前払いが100万〜300万ドル(約1億5700万〜4億7200万円)程度で、公開後の純利益の5〜10%を受け取る形とされる。世界興行収入が1億〜3億ドル(約157億2000万〜471億7000万円)程度のまずまずの成功にとどまれば、アーティスト側が映画から得る収入は数百万ドル(数億円)規模に収まる可能性が高い。それでも、ブランド価値を高める取り組みとしては十分に意味がある。
世界有数の映画音楽カタログを保有するカッティング・エッジ・グループでM&A部門を率いるティム・ヘガティは、「こうした映画は、長い目で見れば確実に収益にプラスになる」と語る。「興行収入が1億ドルを超える映画が1本でもあれば、それは長期にわたって頼れる持続的な新しい収入源になる」
マイケル・ジャクソン遺産管理財団は2019年、キングと契約を結び、この映画を共同制作することにした。財団は、キングが『ボヘミアン・ラプソディ』で実現した大ヒットの再現を期待していた。同作もまた、マーキュリーの人生の一部、なかでも彼のセクシュアリティを正面から描くことを避け、その代わりにクイーンの音楽を称える長尺のコンサート場面に重点を置いていた。この戦略はとりわけ海外市場で大きな成果を上げ、『ボヘミアン・ラプソディ』は世界興行収入9億ドル(約1420億円)のうち、約7億ドル(約1100億円)を海外市場で稼いだ。
海外市場で狙う巨額収益
映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』も同様に、海外市場の重要性を示している。同作は世界興行収入2億6800万ドル(約421億円)のうち、1億9500万ドル(約307億円)を海外市場で稼いでいた。この実績を見れば、マイケル・ジャクソン遺産管理財団が2024年の楽曲カタログ売却時に、手元に残したマイケルの楽曲権利の半分について、海外ロイヤリティの取り分を厚くする条件を求めた理由もわかる。『Michael/マイケル』の公開後、最も大きな収益増が見込まれるのは海外市場だからだ。
コムスコアのシニアメディアアナリスト、ポール・ダーガラベディアンは、「音楽は世界共通の言語だ。そして、投資に見合うリターンを得られるのは海外市場だ」と語る。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、クイーンの存命メンバーとマーキュリー財団に大きな利益をもたらした。製作費がわずか5500万ドル(約86億5000万円)と報じられた同作は、映画からの利益配分に加え、関連事業の売り上げを大きく押し上げた。英国の公開資料によると、映画の公開前の2017年に約2400万ドル(約37億7400万円)だったバンドの持ち株会社の売上高は、2019年には9400万ドル(約148億円)に増加した。その後4年間で、バンドメンバーには8500万ドル(約134億円)超の配当が支払われた。2024年にクイーンがカタログと出版権をソニー・ミュージックへ12億ドル(約1890億円)超で売却した時点でも、売上高は高い水準を維持していた。
「最も理想的なのは、映画の公開による収益増が一時的なものにとどまらず、アーティストの文化的な存在感を再び高め、長期的に収益を押し上げる状態をつくることだ。新しい世代にとって、そのアーティストを知る文化的なきっかけを生み出すことになる」とカッティング・エッジ・グループのヘガティは語る。
『Michael/マイケル』がマイケルの死後に生まれたファン層に響けば、映画の興行収入だけでなく、年間1億ドル規模の関連事業を今後何年にもわたって成長させることにもつながる。ダーガラベディアンは、「Z世代をこうした音楽アーティストに夢中にさせる方法を見つけられるかどうかが、本当に重要だ。この映画は、マイケル・ジャクソン関連ビジネス全体を2時間かけて宣伝するようなものだ」と語った。


