経営・戦略

2026.04.26 15:41

タタ、ボッシュ、エルメスに学ぶ「王朝」としての経営思考

stock.adobe.com

stock.adobe.com

ウィリアム・ルーイは慈善家でポッドキャストのホスト。1933年創業の香港・九龍巴士(Kowloon Motor Bus Company)の4代目後継者でもある。

ファミリービジネスにおける成功の形はさまざまだ。金銭的な利益、ブランド力、影響力、地理的な拡大など、どれもあり得る。成功の形が何であれ、本稿では、最終的に何がこれらの企業を世代を超えて存続させるのかに焦点を当てたい。

私の見立てでは、タタ、ボッシュ、エルメスのような企業は、起業家としての活力を持続させる稀有な力を獲得している。ケーススタディとして取り上げるこの3つのファミリービジネスと私に利害関係はないが、いずれも創業時のビジネスモデルを起点に、革新と再創造を成し遂げてきた点を深く敬服している。

多世代で勝ち続ける企業を分けるもの

19世紀に鉄鋼の一大王朝として出発したタタ一族は、自動車製造、エンジニアリング、情報通信技術へと自然に事業を拡張し、その戦略によってインド有数の多国籍グループへと押し上げられた。同様に、ボッシュも1880年代のシュトゥットガルトで小さなエンジニアリング工房として始まり、世界的なテクノロジー・エンジニアリング企業へと進化する必要があった。最後にエルメスは、19世紀フランスで馬具(鞍)を製造していた企業から、世界屈指のラグジュアリーメゾンへと変貌を遂げた。

これらは、ファミリービジネスが複数世代にわたって動的に変化し得ることを示している。研究者はこの現象をトランスジェネレーショナル・アントレプレナーシップ(世代を超える起業家精神)と呼ぶ。起業家家族が、新たな機会や事業を創出し、それに適応する能力を持ち、組織を創業者の枠を超えて前進させることを指す。

創業企業の原点となる理念を守ることは重要である一方、これらの企業は、当代の世代と市場の要請に応えるイノベーションによっても、ファミリービジネスの長期存続が実現し得ることを示している。

ファミリー企業という制度に宿る起業家的資質

総じてファミリービジネスは、適切に育てることができれば、世代を超えた成功へと花開くうえで特に有利な、独自の特性を備えている。この資質は「ファミリネス(familiness)」と呼ばれる。家族、家族の構成員、そして企業そのものの相互作用を通じて生まれる、独特で移転可能な資源を説明するための用語である。

これらの資源はしばしば無形だが、ファミリービジネスが持続可能な形で進化できるかどうかを大きく左右する。家族間に長年培われた信頼が従業員へと浸透していくこと、意思決定に影響を与える共有価値観など、こうした特性はファミリービジネスの文化を形づくる。その結果、事業や市場、顧客に関する洞察が、世代から世代へと非公式に受け継がれていくのである。

ファミリネスとは、長期にわたる起業家精神の価値観が鍛え上げられ、世代を超えた構成員と重要な従業員の集団的な経験や技能が、無理なく保持される環境である。それこそが、急速に成長し変化するビジネスを創業理念につなぎ留める錨となる。

わが家のファミリービジネスの話

より身近な例として、祖父(故人)が1933年に創業したわが家の会社がある。

私が1990年代に4代目後継者となったとき、祖父が重んじた「信頼性」と「公共奉仕」の価値を、チームへと凝縮して伝えた。伝統的価値を失わずに追求されるイノベーションこそが長寿を可能にし、100年を超えて存続し得る企業を生み出すのだと私は考えている。

さらに重要なのは、日々のオペレーションを効率的に回し続けながら社内に変化を実装するために、適切な外部人材を遅すぎない段階で招き入れる必要がある、という点をチームに徹底していることである。そこには大きな信頼と権限委譲が求められるが、こうした信頼があったからこそ、当社は第二次世界大戦前の小さなバス事業者から、電気バス、太陽光で稼働する車両群、デジタルサービスを取り入れる技術志向の企業へと変貌し、地域最大のバス会社となれた。

伝統に忠実であることと同時に、起業家的で適応力を備えていなければ、存在意義を保つことはできない。絶えず自己刷新を続ける香港のような都市では、なおさらである。

イノベーションはいかに世代を超える起業家精神を駆動するのか

見てのとおり、伝統だけでは事業を世代を超えて運ぶことはできない。各世代は、受け継いだ企業を自らのやり方で刷新する道を見いださねばならない。それが結果として、起業家としての長期的な活力を確保する「適応可能なアルゴリズム」となる。

存続するファミリービジネスは、イノベーションが創業価値からの逸脱ではなく、その延長であることを理解している。時の経過とともに市場は進化し、技術は産業を作り替え、消費者の期待も変わる。ゆえに制度を守りたい家族は、企業を規定してきた原点の原則に軸足を置きつつ、受け継いだモデルを再考し続ける意思を持たねばならない。

この意味でイノベーションは、スチュワードシップ(受託者としての責務)という形を取る。創業時の姿のまま事業を保存するのではなく、各世代が改善と適応を施し、その時代のニーズに応え続けられるようにするのである。

したがって、世代を超える起業家精神は、過去を守ることだけでなく、未来に向けて築く勇気を育むことにも依存している。

企業ではなく王朝として考える

起業家としての勢いを世代を超えて維持する家族(わが家も含む)を研究すると、1つの示唆が明確になる。最も成功しているのは、自らを単一の企業で定義しない家族である。

多くの事業は、創業者のビジョンが原型となる企業から始まる。時とともに、その会社は成長し、多角化し、あるいは完全に変貌することもある。

より強靭な思考様式は、家族が「企業」ではなく「王朝」という観点で考え始めたときに立ち上がる。目標は、創業時の姿のまま特定の組織を保存することから外れる。代わりに焦点は、各世代が新たな価値を創出できる起業家的能力を育むことへと移る。

その例は、次世代がリーダーシップを引き継ぐはるか前から準備を進める多くのビジネス家族の姿勢に見て取れる。家族企業に戻る前に、若い世代にまず社外で働くことを勧め、独立した判断力と起業家的本能を養わせる家族もいれば、若い世代が新たなアイデアを試せるよう、家族の投資ビークルやベンチャーファンドを設け、年長世代が近くで指導する家族もいる。

起業家の本能を受け継ぐ

王朝という視点で見れば、ファミリー企業は単一の会社以上のものとなる。すなわち、世代を超えてビジネスリーダーや重要なアイデア、そして事業を生み出す制度となる。

ゆえに最も長く続くファミリー王朝は、異なる目的を追求する。その野心は、単一企業の生存にとどまらず、起業家的能力そのものの継続にある。会社は盛衰する。しかし存続する家族とは、生き残り、適応し、革新するという人間の本能を受け継ぐ家族なのである。

forbes.com 原文

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事