稲冨正博が創業したExys(イグジス)は、ソーシャルゲームのキャラクターデザインをはじめ、デジタルのキャラクターIP(知的財産)でビジネス展開を行う。
最近では、ソーシャルゲーム「SKYLOCK(スカイロック)」でgloopsと協働し、高い評価を得た。米WiLの松本真尚ゼネラルパートナーは同社の投資1号案件グループの1社として2014年1月に投資を行った。
松本:はじめて会ったのは12年のまだ寒い頃。前職のヤフー時代でした。投資するまで、事業のアイデアなどを話しながら、ただ飲んでいました(笑)。僕は、お互いの性格をよく知ってから投資したいと考えているので、“すぐに”よりは“長く”関係性をつくってからのケースが多い。スタートアップの成否は社長が半分近くを占めますから。
僕のポイントは、一緒にいてお互い楽しいか―。事業戦略や市場などはもちろんですが、投資してから数年間、起業家と苦楽を共にするわけですから、お互い痛みがしっかり共有できて、楽しみも共有できないといけない。僕も経験していますが、起業家は基本的に孤独です。投資家はメンターとまで言わなくても、対等な関係で事業を共に前進させる人であるべきです。
稲冨:出資を受けたのは、事業転換のタイミングでした。ソーシャルゲーム制作をやめ、事業領域をキャラクターをはじめとしたデザイン、アート事業に特化しようと舵を切った時期。チーフ・アート・オフィサーが業界でもよく知られ、これまでもヒットしたソーシャルゲームで多くのデザインを担当しており、成功分野に集中していこうと。
松本:ソーシャルゲームに“魅力的なアート”を提供する会社をつくろうという話を出会った頃からしていました。金鉱で金を掘り当てるより、優れたつるはしを売ったほうが儲かる。「世界的なゲームをつくるぜ」というゲーム制作会社の雰囲気のなかで、“稲冨印のつるはし”はいい、となれと。Exysが制作したキャラクターは非常に評価され、つくり出す優秀なアーティストもいますから。
さらに、いまは、iPhoneとAndroidのおかげで、デジタルで新しいIPをつくれば最初から世界で勝負ができます。これまでは「ドラゴンボール」や「ワンピース」のように、漫画が国内で人気になった後、アニメになって、ゲームやグッズが販売され、映画になり、世界展開していくというパターン。それが、デジタルだといきなりグローバルでマルチ展開ができる可能性があります。
例えば、ソーシャルゲーム化を意識しながら、ストーリーやキャラクターをつくるなど、デジタルに重きをおいて発想すれば、新しいスキームができるかもしれない。僕は、それは日本から出てくると思っています。
実現できるのは、稲冨さんのようにアーティストや技術、コンテンツ、ビジネスをつなげられる編集能力に優れた起業家だと思いますね。
稲冨:今後の目標としては、マーベル・コミックが出版社という枠を超えて、さまざまなところにIPをライセンスアウトしたように、僕たちも世界中を驚かせるIPを輩出していきたい。それは、僕らがつくったキャラクターたちがひとりで歩いていくという面と、つくり出したクリエイターたちが世界に羽ばたいていくという面があります。
僕は、あまり前に出たくないので、漫画家やアニメ監督、ゲームクリエイターなどプロデュースをしたクリエイターたちがどんどん世界に出ていく会社になれれば―と思っています。
松本:上場する時でも、「鐘を鳴らしたくない」と言ってるもんね(笑)。