転職も同じで、いま自分が働いている会社を時価評価したとき、「これからの自分の成長を考えると、この会社にいるのがベストである」と思えるなら、転職はしないほうがいい。
反対に、「いまの会社にいても、自分の力を発揮することができない」ようなら、転職をすべきである(我慢ができず、ちょっとでもイヤなことがあると辞めてしまう人は、自分の価値を下げるだけだが)。
いちばんダメなのは、損切りをしないこと。「ここで辞めてしまったら、いままでやってきたことがムダになる」と考え、ダラダラといまの場所に居続けることだ。ブラック企業の社員が会社を辞められないのは、損切りができないことも一つの要因ではないだろうか。
転職に限らず、変化や変動を嫌う人は、“静止摩擦”が働いていて、「その場にいたほうがいい」「新しい場所には行けない」と考えがちである。
静止摩擦とは、動き出す前の摩擦力のことだ。物体は、動き出す前と動き出した後とでは、摩擦力の大きさが違う。動き出す前は大きな摩擦力がかかっていて、動き出すと摩擦力は小さくなる。
なので、動きはじめてしまえば物事はスムーズに動くはずなのに、環境の変化に対する不安から、現状に留まろうとする静止摩擦が自分の中で生じているのだ。
「転職するのか、しないのか」を適切に判断したいなら、摩擦を恐れずに、「数ある選択肢の中で、これがベストなのか」を自分に問いかけることが大切である。
自分のことを時価で考える―。この理論は、“婚活”中の人にもあてはまる。
「結婚すれば、相手が自分を幸せにしてくれる」「私には、自分を幸せにしてくれるパートナーがいない」と考えている人は、結婚相手が見つかりにくいと聞く。
理由は、「幸せとは、相手から与えられるもの」と考えているからだ。
「自分が幸せにしてあげたい人」ではなく、「自分を幸せにしてくれる人」を見つけたいと思っているうちは、なかなか相手に恵まれない。そこには、「幸せを求めているうちは、幸せになれない」というパラドックスがあるから。逆に、「相手を幸せにしてあげたい」という気持ちが、結果的に自分をハッピーにする。
株式投資も恋愛に似ていて、投資先を選ぶときに「自分が儲けたい」という気持ちが先立つと、不思議と儲からないものだ。確かに、儲けることも大切かもしれない。だが、もっと大切なことがある。
「この会社は、世の中の役に立つ」
「この会社が生み出す価値は、社会に貢献している」
そう確信を持てる会社にこそ、私は投資すべきだと思う。まさに、「情けは人のためならず」なのだ。自分の“ 時価”を上げるために、「相手本位で考える」「他者への関心を持つ」ことを心がけることが、結果的に自分の時価を上げるのではないか。
多くの投資家をみて考えるところ、成功する投資家とはそのような自己評価ができるかどうか、という点にかかっているように私には思える。