筆者はコーポレートブランディングやエグゼクティブ・プレゼンスの仕事で、クライアントに伝え続けていることがある。ブランドとは、ロゴではない。キャッチコピーでもない。価格帯でも、パッケージでも、店舗の内装でもない。
「ブランドとは、内側にあるものが外に滲み出た結果である」と。
商品、サービス、空間、言葉遣い、判断、態度。それらが一貫して初めて、ブランドになる。顧客が「このブランドが好きだ」と感じる瞬間を思い出してほしい。それは多くの場合、そのブランドを知ることになったきっかけの人との関係性や、購入する際や問い合わせへの返答の丁寧さだったりする。つまり「人」が介在した場面が存在する。逆に「このブランド、なんか違うな」と感じる瞬間もそうだ。商品ではなく、そのブランドと大きく関わる誰かの態度が引っかかった、そしてその商品への気持ちが一気に削げてしまった、そんな経験は誰にでもあるだろう。
ブランドは一朝一夕では作れない。ブランドとはカッコつけることでもなんでもなく、「約束と信用」の裏付けがあってこそ成り立つ。だから積み上げるのに時間がかかる。しかし壊れるのは一瞬で、しかも往々にして「商品」ではなく「人」が壊す。
特に日常生活の中に入っていく商品を持つ企業にとって、面接に来る人は単なる応募者ではない。今の顧客かもしれない。未来の顧客かもしれない。あるいは、そのブランドの印象を周囲に伝える人かもしれない。ブランドの毀損は、広告の失敗よりも静かに、深く進行する。なぜなら、それは数字に現れる前に、人の記憶と感情の中に刻まれるからだ。
P&Gやユニリーバの採用姿勢は、その点で示唆に富む。日常生活の中で広く使われている商品を扱う企業として、不採用になった人に対しても「採用という結果ではなかったが、これからもこのブランドと社会の中で出会い続ける可能性がある」という前提で接するという。これは採用活動を優しくすべきだという話ではない。「ブランドとは何か」を理解した上での、極めて現実的な、そして経営的な姿勢だ。


