組織は、従業員エンゲージメントを継続的に追跡している。しかし、職場のエンゲージメント向上や、従業員の定着率向上に長年注力してきたにもかかわらず、Gallup(ギャラップ)の報告書「世界の職場の現状(State of the Global Workplace)」2026年版が示すように、状況は変わっていない──エンゲージメントは低下し、ネガティブな感情は高まっている。経営陣がどれほど注力しても、また従業員の定着プログラムにどれほど力を入れても、持続的な変化をもたらすことはできないようだ。
その理由は、根本的な測定上の問題にある。従業員エンゲージメントを測定する従来のデータでは、従業員が退職する理由を説明できない。従業員の感情が、時間とともにどう変化しているかを捉えることはできるが、その人が自分の仕事について考え直す瞬間を捉え損ねているのだ。
人は、これまでどう感じてきたかに基づいて行動するわけではない。その瞬間の感情に基づいて行動するのだ。
そしてそうした瞬間こそが、多くの職場データで見落とされがちなものであり、同時に経営陣が注目すべき点でもある。
エンゲージメントが安定しているように見えても、従業員はなぜ辞めてしまうのか
筆者が司会を務めるポッドキャスト番組「The Future of Less Work」の対談で、「大離職時代(Great Resignation)」という用語を提唱した研究者であり、『Jolted: Why We Quit, When to Stay, and Why It Matters(衝撃:なぜ私たちは辞めるのか、いつ留まるべきか、そしてそれがなぜ重要なのか)』の著者でもあるアンソニー・クロッツは、前述したような瞬間を「衝撃(jolt)」と表現した。つまり、人々が立ち止まり、仕事との関わり方を再解釈するきっかけとなる出来事のことだ。
こうした「衝撃」とは、不満のことではない。不満は、行動につながらないまま、いつまでもくすぶり続けることがある。「衝撃」とは、それまで我慢していたことが、突然意味を成さなくなる境界線のことだ。
こうした瞬間は、さまざまな方向から訪れる。それには、昇進を逃したこと、上司の発言、組織再編の発表などといった直接的なものもあれば、同僚が辞めていくのを見たり、チームの雰囲気が変わったりすることなどの間接的なものもある。また、仕事とは無関係な出来事がきっかけとなることもある。健康上の不安や、家庭の事情によって、優先順位を見直さざるを得なくなるような場合だ。ときには、パンデミック、世界的な混乱、あるいは技術変革など、個人の経験を超えた大きな出来事が引き金になることもある。さらに、達成したマイルストーンや、身につけたスキルといった前向きな出来事さえも、この道が依然として正しいものなのかと自問させるきっかけになる。
共通しているのは、出来事そのものではなく、それが「仕事の捉え方」に与える影響だ。人は長年にわたり、現実とのずれに耐え続けることができる。しかし、ある「衝撃」が、その耐え忍びの限界点となる。かつては許容できると感じていたことが、もはや許容できなくなるのだ。
そこが、人が感情から行動へと移る分岐点だ。
そして、管理職が積極的に探そうとしない限り、こうした瞬間は見過ごされがちだ。



