そこでAdobeが今回のSummitで示した答えが、「Adobe CX Enterprise」という新プラットフォームだ。
Adobeといえば、PhotoshopやIllustratorの会社として認識されている。しかし売上のもう一つの柱が、Experience Cloudと呼ばれる顧客体験プラットフォーム事業だ。顧客の振る舞いをデータ化・可視化し、マーケティングを自動化する。カスタマージャーニー(一連の購買体験)を設計する。ブランド管理やコンテンツの大規模運用を行う──これらを統合的に担う。Adobeによれば、同社のデジタルマーケティングツール群を基幹システムとして採用する企業はグローバルで2万社以上、年間1兆件を超える顧客接点がこの基盤上で処理されているという。
今回のSummitの基調講演の壇上に上がったP&G、Xfinity、DICK’S、Vanguard、NBCUniversalは、いずれもExperience Cloudのユーザーである。2万人以上が集うのは、Adobeの最新ツールとプラットフォームの更新状況を見据え、自社の顧客体験をさらに高みへと押し上げるにはどうすべきかを話し合うためだ。
そうした場でAdobeが打ち出したのはオープン化である。Experience Cloudはこれまで、Adobeの独自サービスに閉じていた。これを機能ブロックに分解し、「Adobe CX Enterprise」という新しいフレームワークで組み立て直した。エージェント対応に進化させたうえで、他のサービスと連携するオープンなツール群として提供し直している。
Adobe CX Enterpriseでは、マーケティング機能を他社のAI基盤から呼び出せる設計になっている。AnthropicのClaude、OpenAIのChatGPT、GoogleのGemini、Microsoft 365 Copilot──これらのAIアシスタントから、Adobeが管理する顧客データや分析機能、コンテンツ制作機能を直接呼び出せる。
逆方向の連携も用意した。Adobe内のワークフローから、外部のAIの能力を呼び出すこともできる。業界標準となりつつあるMCP(Model Context Protocol)を通じて、AIアプリケーションの間で相互運用する設計に切り替わったのだ。
理由は明白で、企業内でAIサービスを活用することが当たり前になったからである。ある会社は基幹業務の中心にMicrosoft 365を据え、別の会社は顧客対応にClaudeを組み込み、また別の会社はAWS上で独自のAIシステムを構築している。部門や用途ごとに異なるAI基盤を採用することも少なくない。
そんな時代に、マーケティング業務のAI基盤だけがAdobeにロックインされるのでは、いずれ顧客の離脱を迎える。そこでマーケティングツールとしての完成度や、長年のノウハウの蓄積、既存の顧客データや業務連携をそのまま引き継ぎつつ、オープン化に舵を切った。


