経営・戦略

2026.05.02 16:00

インドネシア最大をうたうコーヒーチェーン、2030年に4000店構想を描く

Faris Fitrianto - stock.adobe.com

競争激化と豆価格高騰の中、高価格帯と低価格帯への展開を進める

もっとも、Kopi Kenanganのさらなる展開には、なお課題も多い。なかでも最大の壁は熾烈な競争だ。20年以上前にインドネシアへ進出したスターバックスは、Kopi Kenanganが登場した当時のような巨人ではなくなっている。同ブランドをインドネシアへ持ち込んだ食品・飲料会社Map Boga Adiperkasaによれば、当時のこの世界的コーヒー大手は、23の主要都市で320店を展開していた。現在の店舗数は595店で、果敢に挑む後発のライバル(Kopi Kenangan)のほぼ半分にとどまっている。

advertisement

現在ティルタナタが警戒しているのは、Janji JiwaやFore、Tomoro Coffee、Lain Hatiといった地元チェーンの動きだ。いずれもKopi Kenanganとよく似た戦略で事業を展開し、アジアでの拡大を狙っている。海外勢に目を向けても、タイのCafe AmazonやマレーシアのZus Coffeeがある。フィリピンのビリオネア、トニー・タン・カクション氏率いるJollibee Foodsが過半を保有するベトナムのHighlands Coffeeと韓国のCompose Coffeeも競合に名を連ねる。

中国のコーヒー大手Luckin Coffeeも存在感を強めている。同社は主に中国本土で3万1000店超を展開し、域内での拡大にも意欲を見せている。Luckinは、インドネシア産のコーヒー豆も使っているが、インドネシア市場にはまだ参入していない。

ティルタナタは、こうした競合の群れを「それ自体が脅威だとは見ていない」と話す。むしろ各社が市場の裾野を広げ、アジアでのコーヒーの飲まれ方自体を変えつつあるからだという。彼によれば、自社調査では、インドネシアの1人当たりの淹れたてコーヒー消費量は2.7杯とアジアで最も少ない。だが今後4年で、その数字は4.2杯まで増える可能性があると見ている。つまりこの市場は、「非常に大きく、しかもまだ十分に開拓されていない市場」であり、「成長の余地が大きい」というわけだ。

advertisement

Zus Coffeeの共同創業者兼グループ最高執行責任者(COO)、ベノン・ティアンも、この見方に同意する。彼は「誰にとっても成長の余地がある」と話す。Zusもまた、3月上旬時点で約1000店ある店舗数を2030年までに4倍に増やす計画で、マレーシア、フィリピン、タイで出店を進めている。同社は、6月末までの開業を予定するジャカルタ1号店を足がかりに、Kopi Kenanganの本拠地にも踏み込みつつある。

アラビカ豆の指標先物価格が2年でほぼ2倍になり、調達戦略を見直す

ティルタナタによれば、競合の存在以上に彼が神経をとがらせているのが、コーヒー豆の価格高騰だ。ニューヨークのインターコンチネンタル取引所(ICE)では、アラビカ種の指標先物価格が、供給制約や物流の混乱、米国の関税措置を背景に、2026年1月までの2年間でほぼ2倍に上昇した。3月下旬には1ポンド当たり約3ドル(約471円)まで下落したものの、それでも2024年1月と比べると50%超高い水準にある。

ティルタナタは、このコスト上昇を消費者に転嫁しないため、調達先の分散や先物契約を通じて価格変動リスクへの対応を進めている。使い捨てカップを工場から直接仕入れるなど、他の部分でコスト削減を図っているという。

「絶えず革新を続け、限界を押し広げていくことが欠かせない」と語るティルタナタは、この5年間、Kopi Kenanganの顧客層を拡大しようと、高価格帯と低価格帯の両方向に手を伸ばしてきた。富裕層の取り込みを狙う彼は、インドネシアの主要都市で2つの新業態を立ち上げた。職人式の抽出メニューを提供するKenangan Heritageと、通常のKopi Kenangan店舗より幅広いメニューをそろえたKenangan Signatureカフェだ。

これら2つの新業態の店舗数は、合わせて約12店だ。いずれも大型店で、広さは250〜300平方メートルに達する。テイクアウト型店舗の20〜30平方メートル、一般的なカフェ型店舗の100〜200平方メートルと比べてもかなり広く、価格帯も通常店の2倍以上に設定されている。

ティルタナタは2024年、大衆向け市場を狙い、ハイパーローカル型チェーンのSatu Kenanganを立ち上げた。このSatu Kenanganとは、インドネシア語で「1つの思い出」を意味する。主にフランチャイズ方式を採用し、住宅街の小型ブースで1杯7000ルピア(約64円)から、淹れたてのコーヒーを販売するモデルだ。

だが彼自身が認めるように、これら3つの試みはいずれも思うような成果を上げなかった。そのため方針を改め、拡大をいったん止めたという。「創業者には、限られた経営資源をどこに投じるのが最善かを見極めたうえで、厳しい決断を下す覚悟が必要だ」とティルタナタは語る。

なかでもSatu Kenanganについて、ティルタナタは「重要な教訓を再確認させる戦略的な実験だった」と振り返る。その教訓とは、「価格を下げれば自動的に成功するわけではない」ということだ。彼は、「消費者が買っているのは、単に安い商品ではなく、体験や信頼できるブランドだ」と付け加えた。

次ページ > 創業者の歩みとガバナンス重視の姿勢が、4000店構想の土台

翻訳=上田裕資

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事