5回の調達で約367億円を集め、アジア太平洋に出店網を広げる
Kopi Kenanganは、これまで少なくとも5回の調達ラウンドを通じて、累計2億3400万ドル(約367億円)を調達した。直近のシリーズCラウンドの出資者には、米国のラッパー、ジェイ・Zが設立したベンチャーキャピタルのArriveや米テニス選手セリーナ・ウィリアムズのSerena Venturesなどが名を連ねた。
このほかの有力な出資者としては、インドのPeak XV Partners(旧Sequoia India & Southeast Asia)、シンガポールの政府系ファンドGIC、香港のビリオネアであるソリナ・チャウが率いるHorizons Venturesなどが挙げられる。フェイスブックを運営するMeta Platformsの共同創業者で、シンガポール在住のエドゥアルド・サベリンが共同創業した投資会社B Capitalも名を連ねる。
ティルタナタは、現在計画中の拡大戦略のために外部投資家から新たに資金を調達する考えはないと話す。社内予測に基づけば、社内のキャッシュフローで十分に賄えると見ているためだ。上場の可能性については、「ガバナンスの観点では、特にインドネシア市場で当社は間違いなく新規株式公開(IPO)の準備を整えている」と述べた。また、その時期や規模を語るのは「時期尚早だ」と強調した。なお、ティルタナタは2024年、フォーブス・アジアに対し、「5年以内の上場を目指している」と話していた。
インドネシアとマレーシアでは直営、新規市場ではフランチャイズを基本とする
Kopi Kenanganは、インドネシア国内に加え、シンガポール、マレーシア、インドでは、ほぼすべての店舗を自社で保有・運営している。一方、フィリピンとオーストラリアではフランチャイズ方式を採用している(海外では店舗名をKenangan Coffeeとして展開)。ティルタナタによれば同社は、2030年までにさらに10〜15カ国へ進出する計画だ。店舗数の目標は、売上高の75%を占めるインドネシアで2600店、売上高の15%を占めるマレーシアで800店だ。残る店舗はそれ以外の国・地域で展開する考えだという。インドネシアとマレーシアでは直営店を中心に拡大を進める一方、新規市場ではフランチャイズ方式を基本とするという。「本当のグローバルブランドになるためには、毎年2〜3カ国ずつ進出先を増やす必要がある」とティルタナタは語る。
Kopi Kenanganの店舗の約85%は、客席を設けないテイクアウト型のキオスクだ。主力商品のKopi Kenangan Mantanは2万2000ルピア(約200円。1ルピア=0.0091円換算)、アメリカーノは2万ルピア(約182円)で販売されている。これは、屋台で売られる8000ルピア(約73円)程度のインスタントコーヒーよりはかなり高い。しかし、世界的ブランドが現地で販売する3万5000〜5万ルピア(約319〜455円)と比べると、大きく下回っている。インドネシア政府機関のBPSインドネシアによれば、同国の平均月収は8月時点で200ドル(約3万円)だった。
コロナ禍で生まれた自社アプリが、売り上げのほぼ半分を占める
Kopi Kenanganの売り上げをけん引しているのは、ミレニアル世代とZ世代だ。とくに伸びが目立つのが、利用者が店頭での受け取りやデリバリーを指定して注文できる自社アプリ経由の販売だ。ティルタナタによれば、アプリは今や「会社にとって最大の成長源」であり、売り上げの「ほぼ半分」を占めているという。2025年12月時点のアクティブユーザー数は150万人に達し、2024年から2倍超に増えた。
皮肉なことに、このアプリはコロナ禍の産物だった。ティルタナタは当時を振り返り、「大規模な戦略転換」を迫られたと語る。ロックダウンでオフィス街やモールの客足が落ち込み、数十店を閉鎖せざるを得なくなった彼は、売り上げを確保する手段の1つとしてアプリを開発した。同時に、住宅地やガソリンスタンドでのテイクアウト型キオスクへの投資も積極的に進めた。
共同創業者で取締役を務めるジェームズ・プラナントは、この危機について、ティルタナタのリーダーとしての器を試す局面にもなったと話す。2019年のフォーブス「30アンダー30アジア」に選ばれたプラナントによれば、ティルタナタのその資質こそが会社の成功に欠かせなかったという。「彼の強みは、明確なビジョンを持ち、常に物事をより良くしようとしていることだ」とプラナントは語る。
Peak XVのマネージングディレクターであるロヒト・アガルワルは、ティルタナタについて「社員を大切にし、顧客を大切にする。資本の管理にも非常に優れた、責任感のあるリーダーだ」と評価する。Peak XVは2019年以降、複数回の資金調達ラウンドを通じて累計2500万ドル(約39億円)を出資してきた。アガルワルによれば、それ以降、Kopi Kenanganの企業価値は「10倍から15倍」に拡大したという。
アガルワルは、ジャカルタのホテルでティルタナタと初めて会ったときの様子を、型破りなものだったと振り返る。その若い起業家はコーヒーを4杯持って現れ、味比べをするよう投資家に求めたのだ。アガルワルによれば、その味は、両親が家でミルクと水、砂糖を混ぜて作ってくれたコーヒーを思い出させるものだったという。「あの味には、何かしっくりくるものがあった」と、彼は感慨深げに語る。
ティルタナタは、その懐かしさを引き出そうとして、チェーンの名前をインドネシア語で「思い出のコーヒー」を意味するKopi Kenanganと名付けた。また、同社はインドを除くすべての市場で、インドネシア産の豆だけを使っているとティルタナタは強調する。ただし、インドでは関税と非関税障壁が制約になっているという。
一方で、Kopi Kenanganは地域ごとの好みに合わせて味を柔軟に調整している。たとえばシンガポールでは、甘さを控えめにした味が好まれる。ティルタナタによれば、新しい飲料や豆の種類を2カ月ごとに投入している。2月には、インドネシアで人気のチョコレート飲料「ベンベン」とコーヒーを組み合わせた「Choco Beng Blast」シリーズを発売した。


