
「心の自由」を象徴する存在としてサンプリングしたのは、代表作の一つにニューヨークを象徴する楽曲「Empire State of Mind」があるアリシア・キーズ(同曲はジェイ・Zとのコラボ)。マンハッタンのヘルズ・キッチンで育ち、決して楽ではない幼少期を送りつつも努力を重ねてスーパースターに上り詰めた彼女の心の強さには、松山も憧れを抱いているという。
その夫で、サウス・ブロンクス(ニューヨーク市)のスラム街から成り上がったのが「都市の自由」を象徴するスウィズ・ビーツ。1990年代後半からミュージックプロデューサーとして活躍し、音楽レーベルをつくり大成功を収めた彼だが、ハーバード・ビジネス・スクールに通って本格的にビジネスを学んだ後は、アメリカを誇るアントレプレナー、ミュージシャン、コレクターとして有名になった。
「彼は都市をビートに刻んできた。ニューヨークという都市は様々なライフスタイルや価値観が交差しながら共存する場でもあります。彼のあり方を見ていて、都市そのものが振動しながら絶えず変容していくのを感じました」

続いて「個の自由」を象徴するのが渡辺直美。アジア人であるということを前提としながら、お笑い芸人としてビヨンセを演じたり、モデルや俳優としても活躍したり。カメレオンのように自由自在に変化しながら多くの人に勇気を与える存在だ。
「彼女がパフォーマンスの中で見せる独特なしなやかな動きとか持ち前のチャーミングさを見ていると、アメリカ的な“個”としての身体の自由を感じる。それを作品にしたかった」
最後に登場するのが、モデルのアレックス・コンサーニ。トランスジェンダーのモデルとして自ら道を切り開き、シャネルやアレキサンダー・マックイーン、カルバン・クラインなど多数のランウェイに参加。ヴィクトリアズ・シークレットのファッションショーでも話題となり、2024年のザ・ファッション・アワードで、「モデル・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。松山は本作に、緩やかかつしなやかに変化する彼女のアイデンティティを込めた。
ニューヨークの多様性を体現する4人それぞれの自由を交差させることで、この場所に内在する「重なり」と「生成」、自由が生まれ続けるプロセスを描き、都市そのものの肖像を表現している。


