世界各国から観光客が集まる米ニューヨークのタイムズスクエア。たくさんの巨大モニターに掲出される色とりどりの広告でも有名なこの場所が今、一日の終わりの3分間だけ、現代美術家・松山智一の映像作品で彩られている。
この取り組みは、非営利団体Times Square Allianceが運営する世界最大級のデジタル・パブリックアートプログラム「TimesSquare Arts Midnight Moment」の一貫だ。2012年にスタートした本プログラムは、毎晩23時57分から24時までの間、タイムズスクエア一帯の96面以上のデジタルディスプレイが同期し、毎年約250万人に向けてパブリックアートを届けてきた。これまでデイヴィッド・ホックニーやオラファー・エリアソンなど100組を超えるトップアーティストが参加し、松山の作品は2026年4月1日から1カ月間の上映となる。
ニューヨークのなかでも象徴的なこの場所をキャンバスに、松山が半年以上かけて制作したのが映像作品「Morning Again」だ。コンセプトは「Four Pillars <四つの自由>」。ニューヨークに流れ込む多様な文化的な「力」を抽象的に視覚化し、現代社会の縮図として提示した。都市に刻まれた思想や感情、価値観の“作用”が光や動き、色彩、形となって交差し、重なり合いながら、ニューヨークという都市が内包する 「自由」のあり方を示している。

松山は自身の仕事について「自分の持っている問題意識を、作品をつくる中で日進月歩で磨き上げていく。そうやって自分が掴んだ視点を形にして届けるのが芸術家の仕事なんです」と言う。つまり自ら問題を定義して作品を通して届け、鑑賞者に気付きを与える役割だ。本作もそうした前提のもと、制作がスタートした。
「では、何を表現するべきなのか、そこから考え始めました。タイムズスクエアは資本主義が極度に可視化された場所。皆がギラギラと“私も私も”と主張する競争社会を体現したような空気がありますすが、それを一旦リセットすることができないかなと考えました。資本主義の熱量がむき出しになっているこの場所で、あえて人が放つエネルギーそのものに目を向けさせられないかと思ったんです」
「Morning Again」というタイトルには「再生」の意味を込めた。作品の冒頭で、一度すべてのデジタルディスプレイが真っ白になる。その後に、さまざまな人種の肌の色などを表現したカラフルなストライプが右のディスプレイから左へと回っていく。そして色とりどりの花が芽吹き出す。多様な人たちが動くことでニューヨークは形作られているんだということを表す幕開けだ。
そこから「Four Pillars <四つの自由>」の物語が紡がれる。Prayer(心の自由)、Pulse(都市の自由)、Self-Expression(個の自由)、Transformation(性の自由)である。着想源は、ニューヨーク在住の松山の友人・知人でもある著名人たち。アリシア・キーズ、スウィズ・ビーツ、渡辺直美、アレックス・コンサーニだ。映像では、彼らに着想を得た象徴的なイメージがひとつずつ立ち現れていく。
「着想源とした人物は、雑誌をはじめとするメディアに出ている人たちです。なぜかと言うと、実在する人物も、メディアを介することでイメージが幾重にも重なり、それがひとつの社会的認知として定着していくわけですよね。つまり“コーティング”をしている。けれど僕はその表層を削ぎ落として、 “本来その人物が何を象徴しているのか”ということを考え、僕の言語で包み込みながら、あらためて実在感を立ち上げたいと思うんです」



