AI

2026.04.27 14:30

NEC復活の全貌、株価100円未満から時価総額10倍へ導いたAIネイティブ戦略

小玉浩|日本電気(NEC)

Quick Winの最たる例が、冒頭で紹介した分身AIだ。NECにはCXOの分身AIが存在する。特徴的なのは、分身AIそれぞれに人格を与えている点だ。

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「役員たちの倫理観や根底にある思い、インテグリティを組み込んでいる点が、専門特化型のAIエージェントとの違いです」

役員の分身AIは、社員たちのZoom会議に顔を出し、必要に応じてコメントを返したりすることができる。もちろん、現場の議論の内容を把握することも可能だ。森田CEOの分身AIはすでに4万回以上活用されているという。「私の分身AIは4,500回ほど使われています。1位は断トツで森田ですが、2番目は私です」と小玉は笑う。その実績からも、社員のAXや変革に対する関心の高さがうかがえる。

開発とエシックスを両輪で走らせる

AIネイティブを目指す NECが、最先端の技術を活用するうえで重視しているのがエシックス、すなわち倫理だ。「倫理やセキュリティ、AIガバナンスはブレーキを踏ませるものではない。むしろ、あるがゆえにアクセルを踏むことができる」と小玉は言う。開発とエシックスを両輪で走らせることで、イノベーションは加速する。これがNECの考え方だ。

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AIが台頭した10年代に、同社はいち早くAIと人権のポリシーを策定した。グレーゾーンが顕在化するたびに正面から向き合い、社内で知見を積み重ねてきた。

その経験が色濃く表れているのが生体認証の領域だ。NECの顔認証技術は、米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した顔認証技術のベンチマークテストで世界第1位を獲得するほどの実力をもつ。一方、顔認証には監視社会への懸念やなりすましの問題など、技術面以外の課題が存在する。いざ社会実装を試みても、一般市民に不安や心理的ハードルを与える可能性がある。

いいものをつくったからといって、必ずしも受け入れられるものではない。その現実を、NECは身をもって学んできた。現在、同社の顔認証技術は世界約300の空港をはじめさまざまな場所で利用されているが、その裏側には、データ活用の意図や使用範囲をわかりやすく示し、時間をかけて信頼を築いてきた経緯がある。

試行錯誤は今なお続いている。24年7月には社員証をデジタル化し、顔認証で本社ビルの入退場などを管理する仕組みを本格稼働した。社員に自社の技術を体験してもらい、不都合や不安も含めて意見を集約する。「乗り越えたことすべてが我々の価値になる」。

倫理を軸に、企業としてやるべきことを明示し、自ら試行錯誤した結果を社会に共有し、信頼という土台の上にAIを組み込む。エシックスを「守り」から「攻め」へと転換したとき、それは持続的な成長のドライバーになりうるのだ。


小玉浩◎1982年日本電気ソフトウェア入社。2004年日本電気入社。次世代流通・サービスソリューション開発本部長、DCMソリューション事業部長、エンタープライズビジネスユニット理事、Corporate EVP兼 CIO兼 CISO、執行役 Corporate EVP 兼 CIO などを経て26年4月から現職。

文=瀬戸久美子 写真=阿部高之

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