IEAによる石油備蓄の協調放出はどのような効果をもたらすのか?
1973~74年にかけての石油危機を受けて設立された国際エネルギー機関(IEA)は当初、原油供給の確保を任務としていたが、現在ではエネルギー安全保障全般にわたる情報提供や政策提言も行っている。同機関の最初の取り組みの1つは、大規模な原油供給の途絶に対処するため、経済協力開発機構(OECD)加盟国に、協調的に放出できる石油備蓄制度を構築することだった。加盟国は現在、合計で約18億バレルの石油を確保しており、うち12億バレルは政府が、6億バレルは産業界が保有している。
先月発表された4億バレルの協調放出は、IEAの歴史上最大規模となる。その半分近くを米国が担う。トランプ大統領は当初、この提案を不要だとして拒否していたが、後に1億7200万バレルの放出に同意した。
ここで重要なのは、米国の戦略石油備蓄が4億1500万バレルと、最大量の6割程度にとどまっている点だ。これは、ウクライナ侵攻により原油価格が110ドルを超えた2022年、米国のジョー・バイデン前政権が1億8000万バレルの石油備蓄を放出したことが一因となっている。同国のクリス・ライト・エネルギー長官は、今年後半に2億バレルを石油備蓄に補充する計画があり、これにより備蓄率は約60%の水準まで回復する見込みだと説明した。
緊急放出は一度にすべて行われるのではなく、一定の速度で実施される。今回の事例では、日量200万~300万バレル程度が数カ月間にわたって放出されるとみられる。日量約1500万バレルの原油供給が失われたことに対する対応としては不十分に思えるかもしれないが、サウジアラビアが湾岸地域を迂回した供給分(日量約500万バレル)と合わせると、価格変動や価格高騰のピークを和らげる一助となる可能性がある。
今回の放出により短期的な衝撃は一時的に緩和されるかもしれないが、危機そのものを解消することはできない。イランがペルシャ湾周辺のエネルギー施設を攻撃し続ければ、放出の効果は薄れるだろう。
中東情勢の混乱は再生可能エネルギーを含む他のエネルギー源に影響を与えるか?
当然だ。石油とガスが世界経済で重要な役割を果たしていることから、これは避けられない。原油価格の上昇は製造費や輸送費に影響を及ぼし、ひいては太陽光や風力などの再生可能エネルギーの価格にも影響を与える。LNG価格の高騰は、多くの国で電力価格を押し上げるだろう。一方で、既存の発電設備を所有する電力会社やその他の事業者にとっては、収益の増加につながる。
さらに、エネルギー源の選択には競争という側面もある。「エネルギー転換」という概念は、これを理解するもう1つの方法だ。すなわち、石炭は木材と、ガスは石炭と、石油はガスと石炭と(輸送分野)、原子力は化石燃料と(発電分野)、そして再生可能エネルギーは上記すべてと、さらに再生可能エネルギーの多様な供給源の間で競合している(太陽光、風力、地熱、水力の間には、確かに競争が存在する)。
気候変動と地政学は、この資源間の競争を激化させる要因となっている。だが、それは一見矛盾しているように見える形で機能することもある。石油・ガスの供給が大幅に減少していることから、非化石燃料への移行を求める声が高まる一方で、北海などでの炭化水素資源の開発も加速している。
しかし、これらの回答は矛盾しているわけではない。エネルギー安全保障への懸念が高まる中、中国は再生可能エネルギー、原子力、化石燃料の各電源を同時に拡大しており、供給途絶という事態に耐え得る能力を強化している。したがって、エネルギー転換に関する安全保障上の議論は、複数の側面から捉えることが重要だ。


