経営・戦略

2026.04.22 10:30

アップル新経営陣が狙う“新たな黄金時代” クックが整えた基盤上で「ハードウェア中心企業」へ回帰

ティム・クックとジョン・ターナス(Apple)

ジョブズ期のアップルを思わせる経営体制

経営承継論として興味深いのは、今回の再編がジョブズ期の経営構造を思わせる配置になっている点だ。

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ジョブズ期のアップルは、CEOであるジョブズが製品ビジョンを描き、クックがCOOとして製造を整え、アイブがデザインを統括し、技術担当が基盤技術を支える分業構造で動いた。製品の魂を握る人物がCEOであり、それを支える経営機能とハードウェア機能がそれぞれ独立した責任者を持つ──この構造が次々にハードウェア革新を生み出した。

クック期はこれと異なる構造で動いていた。CEOが業務オペレーションと外部関係を担い、製品ビジョンは複数責任者に分散された。安定拡大期には有効だが、革新には適しにくい構造であり、Vision Proの位置づけの曖昧さやAI戦略の遅れは、構造的にこの分散の帰結だった面がある。

今回の再編は、ただ一人の天才CEOを再現するものではない。だが機能配置として見ると、製品ビジョンをターナスが握り、ハードウェア技術をスルージが束ね、クックが執行役会長として外部関係と倫理ブランドを守る、というジョブズ期に近い分業へ戻ったように見える。クックの執行役会長残留は、この構造の重要な一部だ。プレスリリースは政策決定者との対話を主要業務に挙げたが、それ以上に、15年で築いた「倫理あるテクノロジー企業」というブランド資産の継続的な守護役という機能も担うはずだ。

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世代を一段飛ばして50歳のターナスへ事業継承することに成功すれば、クックが完全引退する頃には、次の10年から15年を一人の経営者で見通せる体制が整うだろう。順送り人事ではなく、長期視点での若返り設計が明快だ。

試金石は2027年から2028年

ターナス体制の評価は、就任すぐではなく数年後になると考えられる。試金石は三つある。

一つは「Apple Intelligenceの完成度を高める」こと。延期続きだったAI機能群が、見えている範囲では2026年秋のiOS 27でどこまで実装されるか。Geminiベースのコア機能をアップル独自の体験へどう統合するか。ここで実用性のある体験を提示できれば、AI遅れの汚名は返上できる。

二つ目は「Vision Pro第二世代の方向性」。市場の観測では、初代の高価格大型モデルの延長ではなく、軽量化と価格低減を両立した普及版が次の焦点になる。スマートグラスへの展開も視野に入っている。空間コンピューティングを単発の挑戦ではなく持続的なプロダクトラインに育てられるか。

そして三つ目は「新カテゴリーの提示」だ。ターナスがCEOとして最初に世に問う「まったく新しい何か」が何になるか。ロボティクスか、ヘルスケアデバイスか、もう一段先か。これがアップルの次の10年の輪郭を決める。

結果が出始めるのは2027年から2028年。クックの15年が「経営最適化の時代」だったとすれば、ターナスの10年は「ものづくりの再覚醒の時代」になるだろう。

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編集=安井克至

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