経営・戦略

2026.04.22 10:30

アップル新経営陣が狙う“新たな黄金時代” クックが整えた基盤上で「ハードウェア中心企業」へ回帰

ティム・クックとジョン・ターナス(Apple)

これまではターナスとスルージで分担していた構造を、一人で統括する組織再編である。ターナスがCEOへ昇格して席を空けたからこそ実現した構造変更とも見れるが、そもそもの構造で言えば、CEOがビジョンを生み出し、エンジニアがそれを実現する構造は自然だ。

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アップルの過去15年の競争優位は、半導体と製品設計を高い統合度で束ねてきたことにある。主要なユーザーエクスペリエンスのレイヤーを、ほとんどすべて自社の技術で制御し、一体設計できる企業はほとんどない。

エネルギー効率、バッテリー持ち、薄さ・軽さの差、そしてもちろん使いやすさは、こうした統合度の高さから生まれる。今回の再編は、その統合度をさらに引き上げるための動きとも読める。

アップルの第8代CEOへ就任するジョン・ターナス(Apple)
アップルの第8代CEOへ就任するジョン・ターナス(Apple)

AI時代のアップルが戦う場所

この組織再編が示唆するのは、アップルが次の10年で勝負をかける領域の輪郭だ。オンデバイスAIと空間コンピューティングだ。

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オンデバイスAIは、生成AI業界の中ではまだ小さな領域だ。派手な機能はOpenAIやアンソロピックが大規模言語モデルの性能競争の中で展開されている。デバイス上で動く小型モデルは、性能はもちろんだが“何ができるか”という驚きを生み出す面で見劣りする。

だが競争軸を変えると見え方も変わる。スマートフォンやパソコンの上で、プライバシーを守りながら、低遅延で、いつでもどこでも動くAI──これを実現できる企業は限られる。半導体の内製、OSの内製、十分なバッテリー設計、熱を管理できる筐体設計、これらすべてを高い水準で揃える企業はアップル以外に多くない。

次世代SiriのコアにGeminiを採用した決定も、このような背景から推察すると見方が変化する。クラウドで実現する大規模モデルの開発競争に資源を分散せず、勝てる戦場──デバイス側のオンデバイス処理と統合体験──に集中する戦略選択。Apple Intelligenceの進化の遅延は確かに汚点だが、それは「アップルが本来戦うべき場所はクラウドではない」という再認識を迫る出来事でもあった。

アップルが未来の技術と見据える空間コンピューティングは、さらに高い技術の統合度が求められる。仮にVision Pro後継機が登場し、普及版として成功するためには、軽量化と高画質化と長時間駆動を同時に実現せねばならない。マイクロOLED、視線検出、イメージセンサー、空間音響、軽量バッテリー、熱設計──これらをメガネサイズの筐体に詰め込むには、半導体と光学と機構設計を最初の設計段階から一体で考える必要がある。

ターナスCEOとスルージCHOの組み合わせは、この二つの戦場で勝つための布陣として、機能的に整合している。データセンターのAI開発競争には参戦せず、デバイス側の物理設計力で他社を引き離すことこそが、アップルの未来を作ると判断したではないだろうか。

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編集=安井克至

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