ジンブランドStill G.I.N.の立ち上げと、ブレントウッド邸での暮らし
新たな挑戦を探していたドレーに、再びアイデアを持ち込んだのはアイオヴィンだった。ある日、スタジオでドレーとスヌープ・ドッグと話していたアイオヴィンは、1994年のヒット曲『Gin and Juice』を、「なぜ実際のプロダクトにしなかったんだ?」と問いかけた。スヌープはフォーブスに対し、「ジンは酒のカテゴリーとしてあまり強くない。だからこそ、あまり伸びていない分野をあえて選んだ。そこで勝てると思ったからだ」と語った。アイオヴィンもこう振り返る。「ドレーは『それはいける』と言い、スヌープも同じだった。そこからクオリティを突き詰める取り組みが始まった」。
ドレーはシカゴの蒸留所をまわって、ジンの製法を学んだうえで、自分が求める味の要素を見極めるために17種類のブランドを試飲した。そして、缶入りカクテルブランド「On the Rocks」をジムビームに売却したばかりだった起業家のパトリック・ハルバートとアンドリュー・ギルと組んで、ドレーとスヌープ、アイオヴィンなどを出資者として迎えた。こうして生まれた缶入りカクテル「Gin & Juice」は、2024年2月に世界3万店の小売店で発売された。
RTD(レディ・トゥ・ドリンク)と呼ばれる、缶や瓶入りのアルコール飲料市場は、この10年で急拡大し、2025年の世界市場規模は38億ドル(約6042億円)に達したと推計されている。一方で、成功したプレミアムスピリッツのブランドは、はるかに大きな利益を生む可能性がある。その例として挙げられる俳優ライアン・レイノルズは、2020年に自身のジンブランド「Aviation Gin」を6億1000万ドル(約970億円)で売却した。ドレーの共同事業パートナーのギルは、「Gin & Juiceは楽しい商品だ。でもStill G.I.N.は本気のブランドだ」と話す。
アイオヴィンは当初、ドレーが何十年も愛飲してきたヘンドリックスに代わるほど気に入るジンを作るのは難しいかもしれないと見ていた。だが彼らは、Beatsが低音を強調したのと同じように、試作を重ねるなかで、昔ながらのジンに多いジュニパーの強い風味を、柑橘系とスパイスで引き締める独自の味わいにたどり着いた。15回の試作を経て、彼らは最初のサンプルボトルをドレーの自宅に持ち込んだ。ドレーはすぐに気に入り、2024年後半の発売を承認した。2026年2月には、Applebee’sが全米1500店のメニューにこのジンを加えると発表した。
「まだやれることはたくさん残っていると感じている。朝起きた時に、何かをやろうという意欲を持っていたいんだ」とドレーは、このスピリッツ事業やほかの取り組みについて語る。
地下プールと未完の地下空間が広がる、ブレントウッドの自宅
ドレーはほぼ毎朝、自宅の下の階に降りていき、全長18メートルのプールを片道で88回泳ぎ、計約1.6キロを泳破する。そこから地下のスタジオに向かって音楽を作ることもあれば、専用シアターに行くこともある。午後の多くは、再び下の階に戻り、本格的なジムでウエートトレーニングをして過ごす。
だが、これらの部屋はすべて、ドレーが2014年にトム・ブレイディとジゼル・ブンチェンからこの邸宅を買った当時には存在しなかったものだ。彼は、4000万ドル(約64億円)で手に入れたこの家の床面積を、3年以上をかけて2倍に広げたという。家の片側の地下には理想のレコーディングスタジオを新設し、反対側ではブレイディのガレージジムをシアターに改装した。その間の車寄せを撤去し、地下プールとジムを造った。「私は物にまったく執着しないタイプだ。この家は、私が人生で初めて誇りに思える買い物だった」とドレーは語る。
ドレーは自身の音楽作品の1つと同じように、しっくりくる状態になるまでこの家を改装し、磨き上げてきた。現在では、ロサンゼルスを見下ろすこの自宅をほとんど離れることがなく、Beatsが生まれたマリブの海辺の家を含む複数の他の不動産を、1650万ドル(約26億円)で売却したと報じられている。「ここを離れる理由がない」と、ブレントウッドの邸宅についてドレーは語る。同邸宅にはときおり音楽仲間を招いてセッションをしたり、友人を呼んで裏庭のプールサイドで葉巻を楽しんだりもするが、多くの日は1人で過ごす。それでも、孤独のうちに巨大邸宅「ザナドゥ」で死を迎えた映画『市民ケーン』の主人公チャールズ・フォスター・ケーンとは違い、ドレーは自身の「ザナドゥ」で安らぎを見出している。
「今は1人で過ごす時間を本当に楽しんでいる。とにかく生活をシンプルにしたい。自分がやりたいのは、この家での暮らし方をそのまま保つことだけだ。家のすべてが、今のままきちんと回っていてほしい。それが自分を幸せにしてくれるからだ」と彼は語る。
それでもドレーは、まだ何かを生み出そうと考えている。キッチンの裏窓から、手入れの行き届いた芝生と太平洋を見渡す景色に目をやりながら、その地下には、まだ約370平方メートルの床面積を増やせる余地があると考えている。
「地下には、まだ何かできることがあると思う」と、ドレーはこの最新の未完の傑作について語る。「そこに何かを作れるかもしれないと思うだけでワクワクするし、何ができるかを見つけ出す過程も面白い。あの下に何を作れるのか、自分が考えつくところを想像してみてほしい。そう考えるだけでも楽しいだろう?」と彼は続けた。


