ロボットアームと小型モデルで、欧州産業の巻き返しを後押し
メンシュは、パリのMistralのオフィスで、新たなプロジェクトのロボットアームを制御できるAIについて熱っぽく語る。この取り組みは、中国と米国がロボティクス分野で先行するなか、欧州の産業大手が巻き返すのを後押しするための試みの一環でもある。またMistralは、小型で用途特化型のAIモデルの投入も続けており、2月には超高速の音声文字起こし向けモデルを公開した。
ここまでのところ、若きMistralのCEOは、不利な条件の中でうまく勝負してきたと言える。AI開発の分野では、マイクロソフトやアマゾン、アップル、イーロン・マスクのxAIのように、Mistralよりはるかに豊富な資源を持つ企業でさえ、OpenAIやAnthropicの脅威を前に苦戦を強いられてきた。メタは2025年、AIに約700億ドル(約11.13兆円)を投じながら、新モデルの投入を延期した。xAIも数十億ドル(数千億円)を使い果たしてきたが、同社のチャットボットGrokは競合勢に見劣りしており、世界の規制当局との摩擦も招いている。
そんな中、現時点でMistralは、欧州製のオープンウェイトモデル分野で事実上の独占的な立場にある。メタは、Llamaの後継となるオープンモデルの開発にやや慎重な姿勢を見せている。また、OpenAIが2025年に投入したGPT-5向けのオープンウェイト版も、AIモデルライブラリーのHugging Faceのデータによれば、期待されたほどには普及していない。だが、この空白地帯が長く続く保証はない。Mistralの出資元の1社であるNvidiaも、自社のオープンウェイトモデルの投入を始めており、その開発に数十億ドル(数千億円)規模の資金を注ぎ込んでいるからだ。
Mistralと、より古い米国のテック企業の双方にとって最大のリスクは、Anthropic、OpenAI、グーグルがAIコーディング分野で築いた優位性によって、自律的に自らを改善できる新モデルの開発を一気に加速させる可能性があることだ。これら3社はすでに、人間の開発者よりも速く、しかも驚くほど少ないミスでコードを書くAIを持っている。だが、次世代のモデルは、そうした領域を超え、幅広いホワイトカラー業務で人間を上回る可能性がある。
自前データセンターを整備、買収提案にも独立路線で応じる
これに対し、メンシュは、他社インフラに依存しない路線を推し進めている。「多くの顧客から、『マイクロソフトやGoogle、アマゾンのようなハイパースケーラーが保有するインフラに依存しないAIを提供できないか』と言われている」と彼は語る。そこでMistralは、パリ郊外の施設を皮切りに、自前のデータセンター整備を進めている。メンシュによれば、2027年末までに200メガワットの容量を確保する計画だ。フランスの国営原子力発電所の電力を活用できる見通しだが、それでも整備費用は50億ドル(約7950億円)に達すると見積もられている。この資金を賄うため、メンシュは石油資金が潤沢なアブダビに支援を求めたほか、借り入れによる資金調達も模索したと報じられている。
もっとも、地元の旗手であることには制約も伴う。2025年にはアップルが買収提案を検討しているとの観測も流れたが、Mistralを外国企業が買収する案を、フランスや欧州の競争当局が認める可能性は低いとみられている。「我々は買収の打診を受けてきたが、Mistralには大きく成長しつつ独立を維持できる道筋があることを示してきた」とメンシュは語る。顧客もまた、「これまで依存してきた既存の供給元から距離を置こうとしている」と彼は指摘する。
結局のところ、そこにMistralの賭けがある。同社はサンフランシスコの競合各社を資金力で上回ろうとしているわけではない。だが、米国のAI大手の影響力が強まれば、そこから距離を置きたい顧客も増え、メンシュにとっての商機はむしろ広がっていくのかもしれない。


