Palantirを参考にした人材派遣型モデルで、欧州と連帯
Mistralは、大手の優良顧客を獲得するために、「フォワードデプロイ型エンジニア」というPalantirの発想を取り入れた。メンシュが売っているのは、単なるAIモデルではない。高度なスキルを持つ人材を顧客先に送り込み、実際の業務上の課題そのものに取り組んでいる。しかも、Mistralのエンジニアが扱うのは自社モデルに限らない。彼らは、あらゆるオープンウェイト型AIモデルに対応する。
ただ、メンシュによれば、顧客の多くは結局Mistralのモデルを選ぶ傾向があるという。「モデルがどう運用され、どのようなバイアスを持ちうるのかについて、顧客がより強い信頼を寄せているからだ」と彼は話す。
Mistralは現在、ロンドンにあるHSBCのオフィスにもチームを送り込み、20万人の従業員がコンプライアンス確認のような定型業務を自動化できるAIツールの開発を進めていると、HSBCの最高情報責任者(CIO)のスチュアート・ライリーは述べている。ライリーによれば、HSBCは複数のAIモデルを使い分けているが、機密性の高いデータを扱う業務では、Mistralが重要な役割を果たしているという。「こうしたモデルとデータは、規制上求められる地域内で確実に管理されなければならない」と彼は語った。
Mistralの約700人の社員の間では、会社の将来は時価総額が3300億ドル(約52.47兆円)に膨らんだPalantirに対抗できるかにかかっているというのが半ば定番のジョークになっているようだ。オフィスには、Palantirの社名と、フランス語で鶏を意味する「poulet」をかけたポスターが貼られている。あるポスターには、同社のビリオネアCEOのアレックス・カープが雄鶏の頭をした姿で描かれ、別のポスターでは「Poulantir」がニューヨーク証券取引所に上場する様子が表現されている。
メンシュも、MistralとPalantirの狙う顧客層に一部重なりがあることは認めている。だが、自社に勝ち目はあると見ている。Palantirは、CEOのカープがトランプ大統領を思わせる発言を繰り返し、米政府向け監視技術の構築で大型の連邦契約を相次いで獲得したことで、Palantirは欧州で以前にも増して物議を醸す存在になっているからだ。ただし、メンシュが対抗しなければならない相手はPalantirだけではない。OpenAIやAnthropicもまた、自前のフォワードデプロイ型エンジニアの部隊づくりを進めている。
またMistralには、OpenAIにもAnthropicにもまねできない強みが1つある。メンシュが「コミュニティーとしての連帯」と呼ぶ、マクロン大統領をはじめとする欧州首脳との一体感だ。彼は、Mistralの運命が欧州の将来と切り離せない形で結びついていると理解している。「我々が成功すれば、欧州も成功する」とメンシュは語る。
だが、Mistralの市場は欧州だけではない。メンシュによれば、売上高の約40%は米国を含む欧州以外の顧客から生まれている。そこでは、愛国心よりも、主導権を握れることやコストの低さが訴求点になる。米国の企業経営陣にも、巨大AI企業の野心を警戒する理由はあるという。「欧州対米国という見方は正しくない。本当に重要なのは、オープンソースとクローズドソースのどちらを採るかという対立軸だ」とメンシュは語る。


