創業者3人がメタとグーグルを去り、Mistralを立ち上げ
パリ郊外で育ったメンシュは、3代続くコンピューター科学者の家系に生まれた。母親は物理学の教師で、父親は小規模なコンピューターサーバー会社を経営していた。祖父も医療データシステムに携わっていた。メンシュがランプルと出会ったのはパリの名門学術機関エコール・ポリテクニークでのことだった。ランプルは2016年、ピエール・マリー・キュリー大学(現在はソルボンヌ大学の一部)でAIの博士課程に在籍していた当時、メタ(Meta)のAI研究部門に職を得て、そこでラクロワと一緒に働いていた。
一方のメンシュは、パリ・サクレー大学で博士号を取得した後、2年間の博士研究員を経て、2020年にグーグルのパリ拠点でDeepMindの仕事に就いた。そこで彼は、大規模言語モデルを従来考えられていたよりもはるかに低コストで構築できることを示した画期的な論文に関わった。ラクロワとランプルは、その発想を生かして、メタの基盤AI研究部門「Fundamental AI Research」で低コストのオープンウェイトモデルの開発を進めた。
2023年2月に「Llama」と呼ばれるそのプロジェクトが公開されると、すぐに大きな反響を呼んだ。小型で低コストながら高性能で、予算が限られた学術研究者やスタートアップにとって理想的なモデルだったからだ。3人はその後まもなくメタを退職した。「我々はすでに、ここフランスで何ができるかを考え始めていた」とメンシュは振り返る。
欧州はここ数十年、ドットコムブームやSNSの爆発的な普及、クラウドの台頭といったテック業界の大きな波の中で後塵を拝してきた。Mistralの共同創業者らは、欧州には独自のAIモデルが必要で、国家主導の色合いが強い各国政府や大手企業がその費用を負担すると確信していた。同社の社名は、冬に地中海沿岸に激しく吹きつける強風「ミストラル」にちなんで付けられた。Mistralの2023年の1億1500万ドル(約183億円)のシードラウンドは、シリコンバレーのベンチャーキャピタルLightspeedが主導した。これは同年、欧州最大のシード調達だった。
また、2023年後半に公開されたMistralの最初のモデルも、大きな話題を呼んだ。メンシュは、OpenAIのChatGPTよりもはるかに低いコストで高性能なAIを構築し、運用できるという自らの約束を守ったのだった。同社はその後、「Le Chat」というChatGPT風の独自アプリも投入した。このアプリは公開から最初の7週間で100万ダウンロードを記録した。その大半はフランス国内からだったとAppfiguresは伝えた。
米国勢に資金力で大きく引き離され、苦戦に直面
だが、Mistralはその後、資金力でも開発速度でも、あっという間に競合に大きく引き離された。OpenAIとAnthropicはこの2年間で、両社合わせて2000億ドル(約31.8兆円)以上を調達し、評価額はそれぞれ8400億ドル(約133.56兆円)と3800億ドル(約60.42兆円)に達している。2025年の売上高は、OpenAIが約130億ドル(約2.07兆円)、Anthropicが約45億ドル(約7155億円)だった。メンローベンチャーズが米国の企業幹部500人を対象に実施した調査によれば、企業向け市場のシェアはAnthropicが40%、OpenAIが27%、Mistralが2%だった。もっとも、メンローベンチャーズはAnthropicの有力な出資元の1社でもある。
2024年の時点では、Mistralは勢いを失いつつあるように見えた。批判的な見方をする人々は、同社が競争で後れを取っていると指摘した。この年の売上高も5000万ドル(約80億円)を大きく下回ったと報じられている。メンシュも、事業化をほとんど重視しない研究機関で働いてきたため「実地で学びながら進むしかなかった」と認めている。だが、交渉には時間がかかる一方で案件規模の大きい契約が徐々にまとまり始めると、売上高は着実に伸びていった。


