『Forbes JAPAN』2026年6月号の第二特集は「AI時代の『組織変革』論」。AIツールが職場に浸透する今、問われるのは「AIを軸にした組織変革」だ。AIを使って経営の意思決定の質を高め、持続的な成長へとつなげることができるか。「AI役員」から「AIコレクティブセキュリティ」まで、5つのキーワードで日本企業の最前線に迫る。
2025年に自律社会が到来──オムロン創業者は「サイニック理論」でこう予測した。人と機械が融和し、個の豊かさを追求するには「真のフィジカルAI」の創発が必要だ。
オムロン創業者の立石一真は、「社会のニーズを先取りした経営をするには、未来の社会を予測する必要がある」という考えから1970年に「SINIC(サイニック)理論」を打ち立てた。科学が技術を生み出し、技術が社会に変革を促すと同時に、社会が技術を求め、技術が科学を刺激する。科学・技術・社会が相互に影響を与え合いながら発展していくという発想をベースに、21世紀前半までの未来シナリオを描き出した。
立石が「未来予測」を発表した日から半世紀以上が過ぎた。この間、オムロンはサイニック理論を経営の羅針盤と位置付け、制御やセンサーなどさまざまな技術を磨き上げながらイノベーションを創出してきた。AI時代を迎えた今も、その羅針盤はオムロンの経営戦略を力強く後押ししている。
サイニック理論では2025年を、人間が個性を生かしながら個々人の豊かさを追求できる「自律社会到来」の年と位置付けている。鍵を握るのが、人と機械の関係性だ。エージェンティックAIの登場やロボットの進化は、自律社会の到来を力強く後押しするものだと考えられる。
オムロン執行役員ストラテジックR&D本部長兼オムロン サイニックエックス社長の諏訪正樹は、現時点で答えが明らかになっていない「問い」に人間が答えを創発しようという力こそが自律社会をもたらすという。では、オムロンでは今、どのような問いに向き合っているのか。キーワードのひとつが「フィジカルAI」だ。
フィジカルAIとは、カメラやセンサーといった外部デバイスから収集されたデータをAIが処理し、その判断結果に応じてロボットなどの機器が動作するシステム全体を指す。だが、諏訪は「現時点でフィジカルAIと呼ばれているものの多くは、賢い脳がロボットに憑依して動かすことにとどまっている」と指摘する。
「我々が考えるフィジカルAIは、身体と五感を有するエージェンティックシステムです。オムロンが手がけているセンサーを含め、機械は人間の五感を超えるさまざまな感覚をもっている。ちまたでいわれているフィジカルAIは、これらの身体感覚が生み出す知能をもち合わせていない」
この考え方は、立石が多大なる影響を受けた理論家ノーバート・ウィーナーの「サイバネティックス」の思想につながる。サイバネティックスとは数学や科学、通信工学、医学など14の学問からなる科学分野を指す。サイバネティックスによると、人と機械、生物と機械、機械と機械はそれぞれがコミュニケーションをとる主体である。この考え方を基に、オムロン サイニックエックスではAIエージェントに物理的な身体と五感を与え、人間の生活に溶け込ませようと研究を進めている。



