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2026.04.26 09:30

AIの奴隷にならないリーダーの条件:宮城聰×冨山和彦

宮城 聰(演出家、SPAC芸術総監督)・冨山和彦(日本共創プラットフォーム代表取締役会長)

「AIの奴隷」になるな

──ビジネスでも、愚かな道を選ぶ、パトスが大事という点は共通するのでしょうか。

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冨山: はい。すでにある正解は誰もがやるのでビジネスでは儲かりません。宮城さんの言う愚かな道のごとく、あえて違うことをやって検証するしかない。その際、どれが愚かな道かという問いを立てるのは人間にしかできません。また、AIが情報の整理をしてくれるようになると、中間管理職がいらなくなります。すると職場では、むき出しの人間同士、パトスとパトスが直接ぶつかり合うようになります。そのとき、理屈ではなく「あいつ、ちょっと気を悪くしているな」といった動物的なエネルギーの衝突を敏感に察知し、集団をひとつの方向にもっていく。これこそがリーダーに求められる最大の役割になります。

もうひとつ、リーダー育成において、自分がAIと同じような泥臭い分析プロセスを通過体験しておくことも重要です。それがないと「AIの奴隷」になってしまいます。いざとなれば最後は自分でやれるという身体的感覚が、AIを使いこなすうえで不可欠です。

──むき出しのパトスを束ねる力や、身体的な感覚はどうすれば培われるのでしょうか。

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冨山:一見自分のゴールに関係のないところに、わーっと横に広がっていく寄り道の経験が不可欠だと思います。目的に向かって一直線に進むショートカットの道は、AI時代には最も価値がなくなります。一見無駄に見える横への広がり、そして、幅広い教養といわれるリベラルアーツがより重要になります。

宮城:「マハーバーラタ」のような古典を上演するたび、誰が書いたかもわからない普遍的な物語から「人間について知った」という不思議な感覚が得られます。リベラルアーツとは単なる知識の蓄積ではなく、人間が目的に縛られた不自由な道から「自由になるための技術」なのだと思います。

冨山: 日本では「教養がある=物知り」と誤解されがちですが、教養とは本来、よりよく生きるための自由技芸なんですよね。私も人生のなかで横に広がった経験が大いに役立っています。

人生でいちばんマネジメントらしきことをやったのは、中高の文化祭で6年間、合唱の指揮者をやった時です。合唱なんてダサいと斜に構えている理屈っぽい連中をひとつの方向にまとめる。これは後に、高学歴なインテリ社員たちを相手にリストラや組織変革を行うときのパトスのマネジメントとまったく同じ構図でした。

もうひとつ、スタンフォード大学のビジネススクールを修了して帰国したその直後から、なぜか大阪の北と南でゴリゴリのどぶ板営業をやらされた経験も強烈に役立っています。営業というのは完全に感情労働で、下町のおっちゃんたちのほうがインテリよりもずっと情緒的に言葉を使いこなす。その語彙空間に飛び込んで別の言語を喋る経験から、社内で権力闘争や政治工作ばかりしている高学歴インテリのおっさんたちは半分クビにしても会社の業績には影響ないという真理に気づきました。

スティーブ・ジョブズのConnecting the dots(点と点をつなげる)と同じで、効率を度外視していろんなところに打っておいたドットが、AI時代にリーダーが多様な状況で人間力を発揮する基盤になるんです。

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文=西村真里子 イラストレーション=ジョエル・キンメル

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