“打席”を用意し続ける
経営戦略としてAXを推進すると同時に、アーティストマネジメントの現場では、個を面白がり信じ切る度量が求められている。グローバルで活躍するきゃりーぱみゅぱみゅを筆頭に、25年の紅白歌合戦に初出場したFRUITS ZIPPERとCANDYTUNE、26年3月に韓国の音楽番組への初出演で話題になったCUTIE STREETなど、個性が爆発するグループを次々と世に送り出してきた同社で、中川が掲げるのは、アーティスト一人ひとりの「やりたいこと」を起点にした共同プロデュースの姿勢だ。
「組織はひとりの強烈なリーダーで動くと勘違いされやすいが、実際は多様な個性が集まることでしか非連続な飛躍は起きない。マネジメントの役割は『付き人』ではなく、共に表現をつくる『プロデューサー』。その認識を全員で共有することが、アソビシステムらしさの根源です」
この思想を現場で体現するのが木村だ。かつて自身もアイドルとしてステージに立った経験をもつ彼女が目指すのは、「一人では到達できない、チームでしか成しえない表現」。マネジメントをはじめ、楽曲や衣装、ダンスを手がけるクリエイターなど全員が「自分がこのグループをつくり上げている」と感じられるような環境をつくり、グループを押し上げる力を最大化する。そのエネルギーがメンバーの意志とも合致し、良い循環を生んでいる。
「木村ミサという人間の魅力が出会ったときから変わらないように、人がもつクリエイティビティはテクノロジーの進化に左右されない。経営者の仕事は、目の前にある個性を理解しビジネスとして成り立つかを見極めること。そして、何より重要なのは“打席”を用意し続けることです」(中川)
かつてアイドルは10代が旬とされたが、今やその常識は崩れた。同社がJR東海やJTBといった異業種との協業を積極的に広げているのも、「新たな打席」を創出するためだ。「何度でも挑戦できる環境があれば、才能は枯れません。20年前から、私の仕事はそれだけです」
木村がプロデュースするアイドルのなかでも、CANDY TUNEは結成から2年を経てブレイクを果たした。「最初がベストとは限らないし、4回目のデビューで売れる子もいる。だからこそ、爆発するための種を蒔き続けています」(木村)。誰もがセルフプロデュースできる時代、あえて「組織」に所属する意味を追求している。
「組織であれば、ひとりでは想像もできなかった『未来の打席』が生まれる。そして、自分の個性が守られ、増幅されるという安心感を与えられる」(中川)
アソビシステムが描く未来図は、最先端の技術をプリミティブな熱狂へと接続し、アーティストとファンが共に「感情」を分かち合える打席を広げ続けることにある。その中心には、常に「人間にしかできない、非合理なまでの情熱」が鎮座している。
なかがわ・ゆうすけ◎イベント運営を経て、2007年にアソビシステム設立。「青文字系カルチャー」の生みの親であり、原宿を拠点に地域と密着しながら、ファッション・音楽・ライフスタイルといった、原宿の街が生み出す“HARAJUKU CULTURE”を、国内外に発信している。
きむら・みさ◎モデルやアイドルグループのメンバーとして活動後、2022年に発足したアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」で総合プロデューサーを務める。FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE、SWEET STEADY、CUTIE STREET、そして昨年MORE STARがデビュー。


