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2026.04.23 14:15

再開発が残した「忘れ物」 空き店舗から広がるシタマチスタートアップ

再開発地区の中央にある「大正筋商店街」

再開発地区の中央にある「大正筋商店街」

1995年1月17日の阪神・淡路大震災で、神戸市の新長田駅南側地区は壊滅的な被害を受けた。あの日の朝、市街地から立ちのぼる黒煙を報道ヘリが全国に中継した場所だ。

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震災後、この地区では、復興に向けた再開発事業が行われることになる。東西に500メートル、南北だと700メートルという広いエリアに、事業費として2276億円が投じられた。

2024年に事業は完了し、新たに44棟のビルが建った。人口は震災前の1.4倍に増え、防災公園ができて、道路幅も広くなり、建物の耐火性も向上し、物理的な「安全・安心」は手に入った。

だが、再開発区域の商店街に足を踏み入れると、人影はまばらで、空きテナントが目につく。計画段階で想定できなかった日本での人口減少と低成長にも翻弄され、街の鼓動を再生できていないと感じる。

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甚大な被害を受けた新長田駅南地区(1995年1月)
甚大な被害を受けた新長田駅南地区(1995年1月)

そんななかで神戸市は、空き店舗や空き家を使って起業する人たちを後押しする「シタマチスタートアップ」という事業を始めた。

この「スタートアップ」とは、米国シリコンバレーでいう成長型企業を指すものではなく、この街に根付く「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」を再定義する地域密着ビジネスという意味合いだ。

この「シタマチスタートアップ」を活用すべく、神戸市内だけでなく、東京などからも移住する人間が増えている。そこで、この地区で起業した2人の女性の話を聞くことで、このエリアの現在地を解き明かしたい。

住む人たちの心の距離感が近い

JR西日本と神戸市営地下鉄の駅である新長田駅から東に5分ほど歩くと、地元の人たちに長年愛されてきた純喫茶を改装した犬のトリミングサロンがある。神戸市垂水区北部の閑静な住宅街でトリミングサロンを営んでいた岡本薫が、2年前に住まいごと引っ越してきて店を開いたのだ。

JR沿線の道路沿いにあるトリミングサロン「コパン」
JR沿線の道路沿いにあるトリミングサロン「コパン」

ここを選んだ理由を聞くと、シングルマザーで9歳の子供を育てている彼女からは「この辺りだと困ったときにも、誰かが助けてくれそうな感じがした」と意外な答えが。それだけでなく「雑多な街だと事業と子育てが両立できる」という謎めいた言葉すら返ってきた。

答え合わせをするとこうだ。均質な住宅街だとご近所でも声がけはほとんどないが、ここでは良い意味のお節介があり、住む人たちの心の距離感が近い。

近所のボルダリングジムが、このあたりに暮らすママたちや高齢者の憩いの場だったので、引っ越してきた頃は、店が忙しいときには彼女の子供はこのジムで遊んでいたという。

トリミングサロン「コパン」を経営する岡本薫
トリミングサロン「コパン」を経営する岡本薫

公的な力なしで自律的な共助の場が実現しているのは、とても下町らしい。両親は関東に住んでいる「独りぼっち」の彼女にとっては、街全体がリビングとして機能しているのだ。

しかも、この雑多さが、店の営業にもプラスになっている。初めてのお客さんにとっても店のドアを叩きやすい土地柄なのだという。

喫茶店を改装しているので、ガラス越しに愛犬のトリミングを眺めながら、コーヒーも愉しめる。地元のリピーターも増え、大阪など遠くから来るお客さんも増えたという。以前の住宅地の店では得られなかった手応えだ。

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文・写真=多名部 重則

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