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2026.04.23 14:15

再開発が残した「忘れ物」 空き店舗から広がるシタマチスタートアップ

再開発地区の中央にある「大正筋商店街」

ものづくりが根付いている街で

次に話を聞いたのは、よりディープな場所に足を踏み入れた。地下鉄海岸線の駒ヶ林駅からすぐの路地にある工房(アトリエ)で、地元の靴工場などから出た廃材や端材を使ってものづくりをしている織戸ゆみこだ。

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前述のトリミングサロンよりさらにディープな場所にあるが、織戸はこの場所に惹かれて東京から移住したのだという。

アトリエ「ナガタbond」を運営する織戸ゆみこ
アトリエ「ナガタbond」を運営する織戸ゆみこ

もともと東京都出身で、デザイン会社と広告代理店で15年ほど勤務。子供が生まれたのをきっかけに、仕事はほどほどに子供中心の生活へと舵を切りたいと考えたという。子供が好きだったこともあり、広告代理店で働きながら出産前に保育士資格を取得していた。

しかし、いざ保育士として現場に身を置くと「保育園の方針があり自分のやりたいことができません。もっと自由に子供たちとかかわりたくなりました」と話す。

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そんななかで、保育士たちがボランティアに近いかたちで子供たちの世話をして親たちのサポートにあたるという全国でも珍しい場に関わるようになる。この活動を運営していた代表が新長田へ移住したことが、彼女自身がこの街へ居を移すきっかけとなった。

そんな彼女の働き方はちょっと変わっている。国籍や年齢を越えた人たちが日常的に行きかう風変わりな「介護付きシェアハウス」と、自閉症や知的障害がある人などがアート制作をする「福祉施設」で、それぞれ週1日から2日働いている。複数の仕事を組み合わせる「ポートフォリオワーカー」の先進事例と言えよう。

それだけでなく、「ナガタbond」と呼ばれる工房も運営。2年前に移住したあと、付近をなんとはなしに歩いていたら、靴づくりをはじめとした小さな工場が点在していて、手仕事が得意な人がたくさんいるのに気づいたのだという。

ものづくりが根付いているこの街で、子供を含めたまちの人たちが創作活動を楽しめる場をつくりたいと考えたのだ。

廃材や道具類が居並ぶ工房
廃材や道具類が居並ぶ工房「ナガタbond」

仮に東京であれば、お金さえ出せば材料は何でもそろう。だが、彼女が目を向けたのは、靴づくりの工場などから出る、放っておくと「ゴミ」になる廃材などだった。これなら地域での資源循環となり、調達コストは実質ゼロだ。しかも工場から見ると廃棄費用が節減できる。

東京にいた頃は「どこに行っても並ばないといけないし、ランチ難民になる。ストレスがたまります。長田でのほどよい人の多さが、ちょうどいいですね」という。彼女の現在の幸福度が垣間見られるひと言だった。

阪神・淡路大震災以前の新長田南地区は、ケミカルシューズの工場の集積地で、木造住宅や長屋が立ち並び、商店街には駄菓子屋や銭湯まである、「職・住・工」が混じりあった「下町」だった。再開発後の街に、この特性を残そうと、努力が続けられてきたのも事実だ。

2人の女性移住者から話を聞いて、あらためてこの再開発された新長田南地区は、人間が人間らしく暮らせるエリアだと感じた。だがそれだけでは終わらない。震災復興の再開発という合理性が求められる事業において、それらが残した「忘れ物」を、2人の移住者から見つけたような気がした。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文・写真=多名部 重則

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