その結果は、まったく曖昧なところがなく、一貫していた。食事量の3分の1を肉にしたところ、咀嚼周期が年換算で200万回近く少なくなったのだ。これは13%減にあたる数字だ。また、必要な咀嚼力も、全体で15%減少した。
さらに、根菜をすりつぶし、肉を薄切りにしたところ、肉が口中で噛み砕かれる際の効率が41%向上し、咀嚼の頻度とその際にかかる力についても、さらなる減少が認められた。
研究チームの導き出した結論は明白だった。それはすなわち、初期のホモ属における咀嚼機能の低下を招いた選択は、当初は、石器による食材の加工と肉食の習慣が合わさって生まれたものであり、調理によるものではなかった、ということだ。
ここからは明らかに、より幅広い見地から見た理論が導き出される。つまり、私たちヒトは、食物の消化を外部化するのと同時に、それまではあごが担っていた力仕事についても、外部化される部分が増えたということだ。
次に、臼歯の咬合面を拡大する方向に働く選択圧が弱まった。さらに数十万年の時を経て、小型化したあごが、健康を保つ上で不利に働くことは徐々になくなっていった。こうして、拡大する頭蓋骨によって、すでに生えるはずのスペースが狭くなっていた第三大臼歯は、機能的にも存在意義を失った。
ヒトに今でも親知らずが生える理由
しかし、親知らずが現生人類の解剖学的特徴に適応していないのなら、当然ながら、疑問が生じる。つまり、「なぜ親知らずは、進化上の選択によって無くなっていないのか?」という疑問だ。その答えは、発達遺伝学、発現のタイミング、そして選択圧自体が機能するメカニズムが交わる点にある。
歯科学の研究により、歯の発育を統率する遺伝子は特定されており、主に「MSX1」「PAX9」「AXIN2」が担い手であることがわかっている。特筆すべきは、これらの遺伝子が非常に多面的な機能を持ち、頭蓋顔面の形態形成全般に広く関わる、保存された制御因子であるという点だ。言い換えれば、これらは歯だけに関わる遺伝子ではない。実際、これらの遺伝子は、歯の間充組織の発育や、あごの形状生成など、より広い連続的な発育に関わっている。
こうした遺伝子の性質から、第三大臼歯の形成を阻害するような突然変異は、ここだけを狙い撃ちにするような形では起きにくく、他の部位の発育に関するコストもついて回る。例えば「AXIN2」の変異は、大腸がんのリスク上昇と関連している。簡単に説明するなら、歯列の遺伝的構造は、コストを伴わない形で、単純に歯の数だけを少なくできる仕組みにはなっていない、ということだ。


