「親知らずの抜歯」は現在、若年層の成人のあいだで最も件数が多い外科的処置の一つだが、こうした処置が行なわれるようになったのは、私たちの種が持つ最も大きな特徴のせいだというのは、何とも皮肉な話だ。実は、「親知らず」があるのは、ヒトの脳が、進化的に見て異例なほど速く成長したことが原因なのだ。
通説とは異なり、私たちヒトの親知らず(正式名は「第三大臼歯」)は、ヒトの体の設計の欠陥を示すものではない。むしろこれは、先祖から受け継いだ特徴の名残だ。先祖のこうしたあごの骨は、今では存在していない環境に対して適応していたのだ。
親知らずがいまだに生える理由や、時おりこの歯を抜く必要が生じる理由を知るには、鮮新世のアフリカ大陸から、現代の歯科医療まで連綿と続く、進化の連鎖をたどる必要がある。
ヒトに親知らずが生える理由
親知らずが何のためにあるのかを理解するには、まずは初期のホモ属が実際に食べていたものを知る必要がある。2006年に『Journal of Human Evolution』に掲載された包括的な研究では、鮮新世‐更新世に生息していたホモ属の臼歯に見られる、顕微鏡レベルの細かい摩耗痕を検証した。具体的には、ホモ・ハビリス(Homo habilis)、ホモ・ルドルフエンシス(Homo rudolfensis)、ホモ・エレクトス(Homo erectus)のうちアフリカで生息していた者が調査された。
調査の際には、高精細のスキャニング技術である電子顕微鏡法が用いられた。くぼみや引っかき傷の分布によって特徴づけられる、こうした摩耗のパターンから、これらの種は、類人猿の基準と比較すると、もっぱら堅いものだけを食べるタイプと、噛みごたえのある食物を選ぶタイプの中間に位置づけられることが示唆された。
この研究結果から、私たちの祖先にあたる初期のホモ属は、決まった特徴のあるものばかりを食べていたわけではないと推察される。むしろ彼らは、雑食性だった上に、かなり幅広い動植物を食料にしていた可能性が高い。
この研究や、関連するエビデンスが指し示すモデルは、適応的多様性の事例だ。具体的には、入手しやすさの季節変動や環境条件に対応して、幅広い種類の食物を利用する戦略が生まれたと考えられる。
しかし、歯の構造に直接関連する決定的なポイントは、「緊急時の食料」の役割に関連するものだ。環境のストレスや季節によって、食物の不足が発生した時期にホモ属が頼っていたと見られるこうした食物は、噛み砕くのに労力を要し、歯の摩耗を招いたり、繊維質が多かったりすることもしばしばだった(地下茎や、硬い木の実、硬い皮を持つ植物などがこれにあたる)。
親知らずは、咬合面が広く、エナメル質も厚い歯であり、こうした戦略にとって不可欠だった。初期のホモ属のあごの骨は、ある意味、栄養的に最悪のシナリオにも対応できるようにできていたと言えるだろう。本来の機能を果たす第三大臼歯(親知らず)は、食物をすりつぶす役割を担っていた。これは、好ましい食物が手に入る保証のない世界では不可欠な機能だ。



