赤面に関する有力な説
赤面が進化してきた理由を説明づけるべく、いくつかの理論的枠組みが提案されており、それらは互いに矛盾するものではない。それぞれの説では、赤面という基本的な働きの異なる一面に光が当てられている。
中でも、最も影響力が大きいのは「Appeasement Hypothesis(宥和仮説)」だ。1997年に『Psychological Bulletin』に掲載された画期的な研究によると、恥ずかしさとそれに伴う赤面は、人間ならではの現象だ。そしてこれは、人間以外の霊長類に見られる「宥和的な姿勢」の表現に相当するものだという。
人が社会的規範に反する行動をし、そのあとで恥ずかしさを示す時は、敬意(従順さ)のシグナルを送っている。「私は、自分がやったことをわかっています。自分の行為が間違いだったことを知っています。私は(集団にとって)脅威をもたらす存在ではありません」というシグナルだ。こうした意思表示が、可能性のある社会的攻撃の緩和と、和解の促進に役立つと、論文著者らは述べている。
赤面することで発せられるシグナルが非常に効果的なのは、赤面が不随意的に生じるものにほかならないからだ。進化生物学的に見ると、シグナルが信頼できるもの、反応する価値があるものになるのは、容易に「ふりをする」ことができない場合に限られる。赤面は、この基準を満たしている。私たちは、社会的な場面をうまく切り抜けたいと思っても、わざと顔を赤らめることはできない。
研究者が説明している通り、恥ずかしいという感情は、社会集団において、協調の問題を解決するために特別な進化を遂げた「向社会的な感情」のグループに属している。それは、私たちが互いに読み取れる感情であり、「共有する規範」への関係の持ち方を伝えるものでもある。
これをそのまま土台にしたのが、「評判を修復する仮説(Reputation-Repair Hypothesis)」だ。1999年に『Journal of Nonverbal Behavior』に掲載された研究では、違反を犯したあとに赤面した人は、赤面しなかった人よりも好意的に評価されたことが実験で示された。より好感を持たれ、責められるべき度合は低く、より信頼できる、と判断されたのだ。
その後の2011年に『Emotion』で発表された研究では、こうした知見を、金銭がからんだ信頼という枠組みまで拡大している。実験では研究参加者に対して、社会的な道徳に反する行動を取っても動揺を見せなかった人と、行動後に赤面した人の写真を、コンピューター画面で提示した。その結果、参加者が「より多くのお金を託してもいい」と判断したのは、赤面した方の人だった。
別の言い方をすれば、赤面は、良心の呵責を伝えるだけではなく、測定可能かつ物質的な方法で、関係を修復する働きを持っているのだ。
とはいえ、こうした効果が無条件で作用するわけではない点にも注目すべきだ。2003年の研究では、違反した人の意図が曖昧な状況では、赤面することで、信頼がむしろ損なわれる可能性があることが明らかになった。要するに、赤面したのは良心の呵責というよりも、罪悪感の表れだと解釈される場合もあるのだ。いつものことだが、文脈は全てを複雑にする。


