経済・社会

2026.04.21 08:15

AIは韓国の安保危機を救えるのか

Joshua Davenport - stock.adobe.com

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韓国メディアによれば、韓国の安圭佰国防相は今月、人工知能(AI)を中心にした科学技術を利用し、南北非武装地帯に配置した兵力を現在の2万2千人から6千人まで減らす方針を明らかにした。AIなどに前方警戒を任せ、異変が起きた場合には瞬時に兵力を展開させる案だとみられている。

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安氏の発言は、少子高齢化に苦しむ韓国軍の深刻な現状を示している。韓国国防省などが国会に提出した資料によれば、2019年に約56万人だった韓国軍兵力は2025年には45万人まで減った。韓国国防研究院などの推計によれば、韓国の人口動態や徴兵による軍服務期間が変わらない場合、2043年には兵力が33万人にまで減少する見通しだ。

防衛白書によれば、北朝鮮軍の総兵力は128万人。北朝鮮も少子高齢化の影響で兵力数が減少するとみられるが、男性の軍服務期間は約7年と、どの軍種も2年未満の韓国よりもはるかに長い。戦闘で有効な攻撃を行うためには守備側よりも3倍の兵力が必要になるとする「攻撃3倍の法則」も、このままいけば、北朝鮮軍は韓国軍相手に達成できそうだ。

もちろん、韓国軍も兵力減少の問題に危機感を持ってきた。これまで、駐屯地内の食堂運営や清掃などの部門はできる限り、外注してきた。準戦時体制で、最大の脅威である北朝鮮と向き合う最前線の警戒部隊にまで手をつけたことは、韓国軍が持つ悩みがいかに深刻な状況に陥っているかを雄弁に物語っている。

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では、果たしてAIに前方警戒任務を任せてよいものだろうか。韓国国防研究院で長く北朝鮮軍事を研究した金振武博士は「人間による警戒監視には限界が付きまとう」と語る。金博士によれば、韓国軍は最盛期には非武装地帯にある哨戒所(GP)に1個小隊、GPよりやや規模が大きいGOPに1個中隊をそれぞれ配置している。赤外線や熱を感知する装備もあるが、警戒任務には限界を伴うという。

金博士は「非武装地帯は高地帯でアップダウンが激しい。定期的に伐採作業もするが、森林も遮蔽物になっている。野生動物も多く、誤認しやすい」と語る。北朝鮮軍兵士もよく訓練されており、過去にあった軍事衝突の際には一時間に1メートルくらいの速度で移動したため、発見が遅れたことがあったという。

また、前方警戒任務では、一般社会と隔離された狭い空間に詰め込まれた兵士たちが、長時間の緊張した生活を強いられる。精神的な緊張や人間関係の不和から、過去には、精神状態が不安定になった兵士による銃乱射事件も起きた。夏はやぶ蚊などの虫に、冬はマイナス20度くらいまで下がる低温や雪に悩まされる。金博士は「AIなら、人間関係による混乱も起きない。肉体的な疲労もない」と指摘する。

もちろん、すぐに問題が解決するわけではない。金博士は「AIは膨大な資料を読み込んで学習する。現場で直接、複雑な地形や四季による環境の変化、人間だけではなく、非武装地帯に生息する動物の動きなどをすべて学習しなければならない」と話す。韓国軍は「AIが前方で警戒監視を行い、AIの通報を受けた軍兵士たちが現場に急行する」という有人と無人を効率よく配置した新しい合同作戦を考えている。金博士は「今後は、韓国軍の戦争ドクトリンも変更する必要があるだろう」と指摘する。

中国軍のようにすでに四足型歩行の無人兵器を配備している例もある。AI自身も常に進歩している。金博士は「前方警戒任務にAIを導入するなら、一刻も早く投入すべきだ。早ければ早いほど、学習量が増え、能力も高くなる」と語る。朝鮮戦争(1950~53年)の末期には、わずかな高地を奪うために血みどろの戦いが繰り広げられた。70年以上の時間が過ぎ、戦争の形は大きく変わりつつある。

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文=牧野愛博

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