判断は「理性」、決断は「直観」で
CEO:自分が「自信を持って決めたい」と思っているのは、まさに決断のシチュエーションです。つまり私は、決断力を付けたいのだということが分ってきました。
鈴木:決断できる人は周りにいますか?過去に自信を持って決断していた上司はいましたか?
CEO:いました。自分が40歳前半だった頃の部長です。部内の会議である議論が沸騰し、参加者の意見が賛成派と反対派で、真っ二つに割れました。判断がつかない状況に陥り、みんなが最後に部長の顔をじっと見たんです。すると、部長はゆっくり落ち着いた声で、決断の言葉を発しました。その理由ももちろん語りましたが、何よりも「決めている」という覚悟が伝わってきた。だから、みんな部長が言うならば、とその決断に納得しました。
決めるということに関して、自分は彼のようにありたいと思っていたのかもしれません。でも現実にはそんな風にできていないから、なんだか嫌な感じがしたんでしょうね。
鈴木:なぜその部長さんは、決断できたのでしょうか。
CEO:ブレない軸を、持っていたんだと思います。例えば、「絶対にお客様を裏切るな、大事にしろ」とか。「人の育成は一朝一夕にはいかない。時間がかかるものだ」とか。
「ブレない軸」。この言葉は、決断力の核心に触れています。
一般的に、判断は理性によって、決断は直観によって下すものです。情報を集めに集め、一度立ち止まって自分の軸に立ち返る。そして静かに、自分の内側の声——すなわち「直観」に耳を澄ます。そうして初めて、決断が生まれるものです。
ここでいう直観とは、単なる思いつきや当てずっぽうではありません。これまでの経験や価値観が統合された「自分なりの判断基準」が言語化され、「軸」として立ち上がることで、はじめて直感として正しく機能するのです。
あるAI関連企業のCEOが、こんな話をしていました。AIの進化はめざましく、表情や音声データを蓄積すれば、高い精度でその人の性格を分析できるようになってきている。けれども、ふとすれ違った瞬間に「この人は危険だ」と察知するような感覚は、いまだに人間の直観の方が優れている、というのです。人間の直観とは、それほど鋭いものです。
では、そうした自分なりの判断基準となる軸は、どのように育まれるのでしょうか。私はそのCEOに、次のように伝えました。
即断の誘惑を捨て、内なる「軸」を掘り起こす
鈴木: ひとつできることは、「あえて答えを出さない時間」を持つことです。
CEO: 答えを出さない時間ですか?
鈴木: 今は、多くの人が生成AIを使っています。AIに聞けば、何でも答えがすぐに手に入る時代です。ですが、あえてすぐに答えを出さない時間を設けてみる。たとえばコーチとの対話の中で、「リーダーシップとは何か?」「経営とは何か?」「決めるとはどういうことか?」といった問いについて考え続けるのです。
最初にパッと浮かぶ答えはあると思いますが、それを最終的な結論にせず、30分、1時間と考え続け、対話を重ねる。その中で、これまでの経験や、自分が何を良しとしてきたのか、何を大切にしてきたのかといった価値観を探索していく。すると次第に、自分の判断基準が形を帯びてきます。
より正確に言えば——もともと自分の中にあった軸が、探索で出てきた言葉によってすくい上げられ、姿を現してくるのです。そして「そうか、これが自分の軸だ」と感じられる瞬間が訪れるはずです。その軸を意識しながら情報を取り入れ、最後は直観に委ねる。決断とは、そういうプロセスなのではないでしょうか。


