業界関係者は、臨床開発こそが最大の難題だと指摘
2歳のときに家族とともに台湾から米国に移民として渡ったリウは、カリフォルニア州サウザンドオークスで育った。イェール大学を卒業後、ケンブリッジ大学で計算生物学の修士号を取得し、その後ローズ奨学生となった。オックスフォード大学での博士論文では、AIとビッグデータを使って、パーキンソン病とアルツハイマー病の診断法や治療法の開発に取り組んだ。
リウは、博士論文をまだ書き上げる前から、のちのFormation Bioとなる構想を温めていたという。共同創業者のジャンは、「起業家としてのベンには、表面的な部分はまったくない。友人が起業しているからとか、かっこいいからとか、自分をブランド化したいなどの理由でスタートアップを始めようとしているわけではない」と語る。
Formation Bioに出資し、在任中に同社との提携も進めたサノフィの前CEO、ポール・ハドソンは、「創薬は華々しく報じられがちだが、業界に残された最大の難題はその後の開発にある」と語る。臨床試験にかかる時間とコストは莫大だ。しかも、薬の特許には期限があるため、開発の遅れはそれだけで大きな損失につながる。ライフサイエンス分野のコンサルティング会社ZSを率いるプラタップ・ケドカルは、「臨床試験には、実際には何も進まない時間がかなり多い。課題は、期間とコストを半分に抑えながら、試験をきちんと通過できる確率もどう高めるかだ」と指摘した。
Aditum Bioで戦略を試し、自前ポートフォリオを構築
創業初期のまだ他社の臨床試験の受託に力を入れていた頃、リウとジャンは自社で候補薬を買い入れることを急いでいた。だが投資家は、それは時期尚早だと警告した。そこで2人は2019年、ノバルティスの元CEOであるジョー・ヒメネスとともに、まずはその戦略を試す場としてAditum Bioを立ち上げた。
Aditumは現在のFormation Bioと同じように候補薬を取得し、それぞれを別会社に切り分けて運営した。Formation Bioはそれらの会社に少数株主として出資していた。なかでも大きな成功例となったのが、除脂肪筋肉量を増やす薬を保有していた会社だ。2023年には、イーライリリーがその会社を最大19億ドル(約3021億円)で買収した。「冗談半分でよく言うのだが、この戦略を最初から自社で直接進めていたら、もっと大きな成功になっていただろう」とリウは語る。
創業から5年がたった2021年、リウとジャンは、ようやく自前の候補薬ポートフォリオを組めるだけの経験を積んだと感じたという。リウは「私は、確率で物事を考えるタイプだ。会社の戦略を考えるときも、まずは業界平均を前提にかなり保守的に見積もる。そのうえで、臨床試験をより安く、より速く進められるという点で、本当に競争優位を持てるかを見極めるようにしている」と語る。
変形性関節症の治療薬で、AI予測モデルを構築
2022年1月、Formation Bioは、変形性関節症の患者の膝で軟骨の成長を促す可能性がある治療薬のライセンスを取得した。この疾患は世界で2億3000万人以上が患っているとされる。この薬はドイツ・ダルムシュタットに拠点を置くMerck KGaAが開発したもので、すでに800人超の患者を対象に3件の臨床試験を終えていた。Formation Bioは、非公開の金額でこの薬を取得し、新設された会社の過半数株式を取得した。一方、Merck KGaAも少数持ち分を維持している。
臨床試験のデータでは、この薬の注射によって軟骨の成長が進むことは確認されていた。だが、注射によってプラセボを上回る痛みの軽減が得られるのか、あるいは人工膝関節への置換手術の必要性を防いだり遅らせたりできるのかは、なお不明だった。そこでFormation Bioは、2万3000人の患者データと4万8000件のMRI画像を学習させたAI予測モデルを構築した。このモデルで、膝関節置換手術のリスクが高い患者を見極め、軟骨が厚くなることが関節の保護につながるかどうかを分析した。
リウによれば、その結果、この薬の投与で軟骨の成長が進んだ患者では、5年以内に膝関節置換手術が必要になる確率が低下していたという。候補薬選定チームを率いるドルステンは、「AIがなければ、おそらく私はこの案件を見送っていただろう」と語る。この薬は現在、後期段階の臨床試験に進んでいる。
しかし、どれほど優れた選定プロセスがあったとしても、買い入れた候補薬のすべてが成功するわけではない。リウもそのリスクを十分に理解しており、全体として採算をとることを重視している。「10本中3本成功すれば理想的だが、1本でも成功すれば投じた資金を2倍にできる」と彼は語った。


