経営・戦略

2026.04.23 16:30

横領・北朝鮮労働者の潜入に直面、OpenAIやアンソロピックを支える米データラベリング新興

スタートアップMercorのCEO ブレンダン・フーディ(Photo by Stefanie Keenan/Getty Images for for Village Global)

スタートアップMercorのCEO ブレンダン・フーディ(Photo by Stefanie Keenan/Getty Images for for Village Global)

生成AIの性能向上には、専門知識を持つ人間が作成した高品質な訓練データが不可欠とされる。米シリコンバレーのスタートアップMercor(メルコア)は、このデータ作成(データラベリング)を、博士号取得者・弁護士・プログラマーなど5万人の専門人材を集めて担っている。2023年に当時20代だった3人の共同創業者が立ち上げた同社は、OpenAIやAnthropic(アンソロピック)を主要顧客として急成長し、年間売上高ランレート(現在の売上高をもとにした年換算額)は、2026年初めに10億ドル(約1590億円。1ドル=159円換算)を突破した。共同創業者3人は22歳で、世界最年少の「自力で財を築いたビリオネア」となった。

だがその急成長の裏で、同社は複数の問題に直面している。ある元社員が家族名義で報酬を流用した横領事件、北朝鮮の工作員とみられる人物が身分を偽って働いていた疑い、ハッキングによる情報漏洩。米政府は近年、北朝鮮IT労働者が米企業にリモートで潜入し、報酬が本国の兵器開発資金に流れているとして警戒を強めており、Mercorの事例はその問題がAI産業の中核にまで及んでいる可能性を示している。

同社はデータラベリング市場でScaleやTuring、Surgeといった競合と顧客を奪い合っており、顧客のAI研究企業は委託先を素早く切り替えられる立場にある。社内では、長時間労働「996」が常態化し、突然の報酬体系の変更で退職も相次いだ。共同創業者のうち2人は対立を抱えているとされ、経営陣は社員に同僚の匿名密告を促す社内調査まで行っていた。

そして横領を指摘された元社員は、新事業でVCから約2億4000万円の出資をすでに獲得している。

従業員による横領事件が発覚、運営上の混乱に直面

データラベリングのスタートアップMercorのビリオネアCEO、ブレンダン・フーディ(23)は、2026年初めの全社会議の場で、「不正」という単語が書かれたスライドを映し出した。200人を超える社員が集まったその場で当時22歳だった彼は、ある社員の不正について説明した。

フーディは、その社員が会社の資金を横領していたと説明した。この会議を知る4人によれば、その人物はすでに解雇されており、「Mercorはこうした行為を一切容認しない」とフーディは述べたという。

その従業員の氏名や、盗まれた金額は明かされなかったという。だがフォーブスの調査で、不正を行っていた社員が初期に採用されたメンバーで、Mercorにとって特に重要な取引先の1つであるAnthropicのアカウントを統括する責任者だったことが分かった。この部署では、Mercorの契約スタッフがClaudeの開発を支える訓練データを作成している。

Anthropic担当の責任者が家族をエキスパートとして採用、数千万円を支払う

Mercorの元従業員によると、その責任者は自身の兄弟と父親を「エキスパート」として採用し、ボーナスの名目で数十万ドル(数千万円)を支払っていたという。2人の情報筋によれば、複数のデータ生成プロジェクトで、契約スタッフにAnthropicへの請求額を上回る報酬が支払われていたことが判明し、その責任者は12月下旬に通報された。情報筋によれば、Anthropicはこの件を把握していなかったという。

Mercorの広報担当ハイディ・ハグバーグはフォーブスに対し、不正に支払われたボーナスは最終的に回収され、顧客に金銭的な被害は生じなかったと説明した。フォーブスは、この元Anthropic担当責任者の実名を伏せているが、本人は本稿についてコメントを拒否した。Anthropicもコメントを控えた。

共同創業者3人は、2025年10月世界最年少のビリオネアに

しかし、この出来事は、フォーブスの取材に応じた十数人の元従業員によれば、急成長を遂げたMercorで相次いでいる運営上の混乱の1つにすぎないという。博士号取得者や弁護士、銀行員、科学者、プログラマーなど5万人の高度人材を集めたMercorは、OpenAIなどの大手AI研究企業向けに訓練データを作成してきた。同社のこれまでの業績はきわめて好調で、事情を知る関係者によると、年間売上高ランレートは2026年初めに10億ドル(約1590億円)を超え、月間売上高は8330万ドル(約132億円)に達した。

2023年に高校のディベートチームで出会った古くからの友人3人が創業したMercorは、シリコンバレーで急増するAIスタートアップの象徴的な存在になっている。しかも、その経営を担うのは、際立って若く、際立って裕福な創業者たちだ。共同創業者のフーディ、最高技術責任者(CTO)のアダーシュ・ヒレマス、取締役会長のスーリヤ・ミダの3人は2025年10月、それぞれ22歳にして、世界最年少の自力で財を築いたビリオネアとなった。これは、Mercorが著名VCのフェリシスやベンチマーク、ゼネラル・カタリストなどから評価額100億ドル(約1.6兆円)で3億5000万ドル(約557億円)を調達した後のことだった。

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翻訳=上田裕資

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