中国の長時間労働「996」を彷彿とさせる、極めて過酷な職場環境
1年前には40人未満だったMercorの社員数は、現在では300人近くに増えた。それに伴い、社内の文化も大きく変わったと元従業員は証言している。社員が語るのは、午前9時から午後9時まで、週6日働くのが当たり前になっているとされる「996」と呼ばれる中国の長時間労働を思わせる、極めて過酷な職場環境だ。優先事項やプロジェクトの範囲は目まぐるしく変わり、日程は短く切り詰められ、現実的とはいえないことも多いという。
上級幹部が午後9時にオフィスを見回り、不在者を記録か
2人の元従業員によると、ある上級幹部は午後9時になるとオフィスを見回り、席にいない社員を記録していたという。また、複数の情報筋によれば、一部のプロジェクトリーダーの報酬体系が突然変更された後、退職が相次いだ。本稿の公開後、Mercorの広報担当のハグバーグは、こうした監視は行われていなかったと主張した。
「当社は勤務時間を義務づけてはいない。ただ、世界で最も重要な企業である顧客のスピードに合わせて、懸命に働くことを求めている。こうした厳しさは、すべての人に合うわけではない。それで構わない」とハグバーグは述べた。
元ウーバー幹部が報酬体系を見直し──一部従業員は恣意的で不公平との受け止め
こうした変化が始まったのは、2025年5月にMercorが、事業拡大を担う初のプレジデントとして、ウーバーで製品部門トップを務めたスンディープ・ジェインを迎えた時期だったようだ。共同創業者3人は2025年9月、フォーブスに対し、ジェインは新規採用や管理体制の整備に加え、顧客向けデータの追跡や報告をより適切に行う方法を見つける役割も担っていると説明していた。
ジェインが実権を握るようになると、社内の体制や業務プロセスは変わり始めた。2025年10月に彼は、データラベリング案件で予算管理や専門人材の採用を担う「戦略プロジェクトリード(SPL)」の報酬体系を見直した。4人の情報筋によると、Mercorのデータラベリング案件の利益率は30%超で、そのうちSPLには現金で5%、株式で10%が配分されていたという。だが、複数の元従業員によれば、売上連動のコミッション制は廃止され、今後は人事評価に基づくボーナスが支払われる仕組みに変わった。
Mercorの広報担当ハグバーグは、新制度について、高い成果を上げた社員の報酬は増え、成果が低い社員の報酬は減る仕組みだと説明した。これは、急成長するスタートアップで社員の意欲を引き出す一般的な手法だという。だが複数のSPLは、この新しい人事評価制度を恣意的で不公平だと受け止めていた。複数の情報筋によると、約束されていたより少ないコミッションしか受け取れなかったと話す人もいた。
「Mercorの報酬水準は、大手の報酬コンサルティング会社によれば上位1%に入る水準だ。これまでも常に、内定通知書に記載した報酬内容と一致していた」とハグバーグは述べた。
フーディとCTOのヒレマスが対立、経営陣は匿名で同僚の密告を社員に促す
ジェインが加わって数カ月後、共同創業者で最高執行責任者(COO)だったミダは日々の業務運営から退き、2025年10月に取締役会長へと役割を移した。最近では、共同創業者で最高技術責任者(CTO)のヒレマスも共同CEOに昇格した。Mercorによると、ヒレマスは新設されたエンタープライズ部門を率い、企業が社内業務向けのエージェントを構築するのを支援する事業を担うという。
2人の元従業員はフォーブスに対し、フーディとヒレマスの間には対立が多く、2人が会話している姿はほとんど見られず、執務室も別々の階にあったと証言した。これに対しハグバーグは、「ブレンダンとアダーシュは高校時代からの親友で、今も毎日話している。2人は共通のビジョンと目的を持っている」と述べた。
匿名で同僚を密告させる社内調査を実施、閲覧はヒレマス、フーディ、ジェインの3人のみ可能
また経営陣は、容赦のない競争的な社風を煽っていたようだ。フォーブスが確認した社内向け人材調査のコピーによると、Mercorの経営陣は最近の社内調査で、社員に同僚を匿名で密告するよう促し、「チームの中で水準を引き下げているのは誰だと思うか」と尋ねていたという。回答を閲覧できるのは、「ABS」のみとも記されていた。これはヒレマス、フーディ、ジェインの名前の頭文字を指す略称だ。ある情報筋によると、経営陣は逆に「水準を引き上げている社員は誰か」も尋ねていた。
資金を流用したとされる元従業員、新事業を立ち上げ
もっとも、少なくとも1人の元従業員は、かなり恵まれた形で会社を去ったようだ。2人の情報筋によると、資金流用をしたとされる元従業員はすでに、マーケティング分野で完全自律型の企業を立ち上げる新事業について、BoxGroupから出資を受けているという。2人によれば、BoxGroupはその構想段階のアイデアだけで150万ドル(約2億4000万円)を投じた。BoxGroupはコメント要請に応じなかった。
フォーブスは本稿公開後に、Mercorからのコメントを追記し、同社の年換算売上高ランレートが10億ドル(約1590億円)を突破した時期を明確にするための更新を行なった。


