経営・戦略

2026.04.23 16:30

横領・北朝鮮労働者の潜入に直面、OpenAIやアンソロピックを支える米データラベリング新興

スタートアップMercorのCEO ブレンダン・フーディ(Photo by Stefanie Keenan/Getty Images for for Village Global)

北朝鮮の工作員が本人確認をすり抜けていた疑いなど、複数のセキュリティ問題に直面

Mercorがここ数カ月、複数のセキュリティ問題にも見舞われていたことが、5人の元従業員への取材で明るみに出た。複数の情報筋によると、Mercorでは早ければ2024年11月の段階で、北朝鮮の工作員とみられる人物が盗んだ認証情報を使って本人確認をすり抜け、働いていた疑いが浮上しており、その状況は最近まで続いていたという。情報筋によれば、こうした人物の一部はAnthropicなど米国のAI研究企業向けにデータ作成業務も担っていた。元従業員の1人によれば、社内では彼らを「NKs」と呼んでいた。彼らは、契約スタッフに求められるコード作成業務では特に優秀な存在として知られていたという。

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週80時間働き完成度の高いコードを書く工作員が、社内で「NKs」と呼ばれる

この元従業員はフォーブスに対し、「彼らは週80時間働き、最も完成度の高いコードを書いていた」と語った。別の元従業員によると、社員が最初に疑いを持った1人は、プロジェクトリーダーを務め、「誰もが強く信頼し、多くの権限を任されていた人物」だったという。社員たちは不正検知システムを使って疑念を裏付け、その人物は後に解雇された。

別の元従業員は、プラットフォーム登録時に専門人材が提出する面接動画の1つを確認した際のことを振り返った。彼は、この動画の人物が、多くの専門人材と同じように、自宅の仕事部屋で動画を撮影しているものだと想像していたが、実際には殺風景なオフィスで撮影されていたという。画面の背景には、同じ黒いオーバーイヤー型ヘッドホンを着けた複数の人物が映っていた。別の契約スタッフの面接動画を確認すると、別の角度から同じ光景が映っていたという。

元従業員によると、Mercorはこの問題への対応として、3社の異なる審査会社を試し、3人体制の不正対策専任チームを立ち上げたという。情報筋の1人によれば、社員は、いわゆる「NKs」を見分ける方法をまとめた社内向けのガイドも作成し、共有していた。現在、同社は本人確認ソフトを手がけるPersonaと連携し、こうしたチェックを行っている。

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Mercorの広報担当ハイディ・ハグバーグは、「当社の不正検知は、複数の最先端AI研究企業から業界をリードする水準だとの評価を受けている。それは、当社が24時間体制の監視やIPブロックを含め、不正検知の体制とチームに多額の投資を行い、プラットフォームの不正利用を防ぎ、検知する仕組みを強化してきたためだ」と述べた。

北朝鮮人材の問題は、テクノロジー業界全体に広がっている。CNNは2025年8月、北朝鮮人材がここ数年、リモート勤務の仕事を通じて米企業に入り込み、数百万ドル(数億円)を違法な兵器開発計画を支援するために本国に送ってきたと報じていた。そして、その動きはデータラベリング業界にも及んでいる。Mercorの元従業員らは、北朝鮮人材と疑われる人物が、最先端AI研究企業が重視する訓練データの内容に触れていた可能性を懸念していた。こうした情報は各社の営業秘密にあたる。

「LiteLLM」ハッキングが発覚し、メタは取引を一時停止

Mercorは、深刻な情報漏洩にも直面しており、その影響で少なくとも1社の大口顧客を失う可能性が出ている。4月初め、同社は、オープンソースプロジェクト「LiteLLM」に関連する大規模ハッキングで標的になった数千社の1社だったと明らかにした。メタはフォーブスに対し、この情報漏洩の調査を進めている間、Mercorとの取引を「一時停止している」と説明した。複数の情報筋によると、OpenAIを含む他の最先端AI研究企業も、自社の機密性の高い訓練データが流出したかどうかを調べるなかで、このスタートアップとの取引を見直しているという。OpenAIはコメントを控えた。

Mercorの広報担当ハイディ・ハグバーグは、「第三者による調査の期間中も、ほぼすべての顧客とは通常通り取引を続けており、新規プロジェクトの立ち上げも続いている」と述べた。また、同社のセキュリティチームは外部の関係者とともに調査を進めており、漏洩への対応も進めていると説明した。

Mercorは、同社側の過失によって社会保障番号や氏名、その他の顧客データなどの個人情報を漏洩させたとして、業務委託で働いていたスタッフから少なくとも6件の訴訟を起こされていることが連邦裁判所の記録で明らかになった。Mercorは係争中の訴訟についてコメントを拒否した。

ScaleやTuringなど競合が多く、Mercor以外への委託先の切り替えが素早く進む

Mercorにとって、この問題の影響は大きい。AI研究企業は、多数のデータラベリング業者の選択肢を持っており、別の委託先への切り替えもすばやく進められるからだ。同社の競合には、かつて創業者のアレクサンダー・ワンが「世界最年少の自力で財を築いたビリオネア」と呼ばれたScaleのほか、2025年9月時点で評価額が20億ドル(約3180億円)を超えたInvisible Technologies、創業者のエドウィン・チェンがフォーブスの「米国長者番付400人」に入る最年少ビリオネアであるSurge、2025年6月に評価額22億ドル(約3498億円)で1億1000万ドル(約175億円)を調達したTuringなどがある。

新興のmicro1やHandshake、急速に市場シェアを伸ばす

2026年4月に年換算売上高ランレートが3億ドル(約477億円)を超えたmicro1や、事情を知る関係者によると年換算売上高ランレートが8億5000万ドル(約1352億円)を上回るHandshakeといった新興勢力も、急速に市場シェアを伸ばしている。

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翻訳=上田裕資

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