米国ではAIデータセンターの電力需要急増を背景に、トランプ政権の後押しもあって新型原子炉スタートアップが相次ぎ立ち上がっている。なかでも異彩を放つのが、2022年設立のDeep Fission(ディープ・フィッション)だ。同社は、地下約1600メートルの岩盤に超小型原子炉を埋設するという奇抜な構想を掲げている。
地中深くにかかる水圧と岩盤の重みを利用することで、従来型原発の建設費の約8割を占めるコンクリート建屋と分厚い鋼鉄製の圧力容器を省けるという。発電コストは1キロワット時あたり約6セント(約10円)に抑えられる見通しだ。また、地下深くの岩盤が圧力と熱を封じ込めるため、安全面でも従来型を上回ると主張している。
仕掛けたのは、米カリフォルニア大学バークレー校で40年教壇に立った著名物理学者リチャード・A・ミュラー(82)と、起業家の娘リズ(47)の親子。1度は引退した父リチャードを、リズが説得して起業の道に引き戻した。同社の評価額はすでに10億ドル(約1590億円)に達し、パランティア共同創業者のジョー・ロンズデール率いるベンチャーキャピタル8VCも出資する。
物理学者リチャード・ミュラー、娘の説得で起業家へ転身
起業家のリズ・ミュラーと彼女の父リチャードは10年以上にわたり、米カリフォルニア州バークレーの丘陵地帯を、3マイル(約4800メートル)にわたって、たいてい週に2回歩いてきた。途中でコーヒーを飲み、アイデアを出し合いながら歩くのが常だった。「私が1つ思いつくと、彼女も1つ思いつく。そんな感じだった」とリチャードは語る。彼は33歳になる前に、古代の植物や動物の遺骸の年代を特定するための炭素年代測定法の新たな手法を考案し、38歳で「天才賞」として知られる「マッカーサー・フェローシップ」を受賞した。
カリフォルニア大学バークレー校で40年間教壇に立ってきたこの物理学者は今、ビジネス感覚に優れた娘との長年の散歩のおかげで、商業面で人生最大の成果を上げようとしている。「原子力を巡っては、どの立場の人も強い感情を抱く。私がバークレーで育った頃は、先生も友人もみんな反原発で、街そのものが非核地帯を宣言していた」とリズは語る。
リズ自身も反原発寄りの考えだった。父の恩師で、ロバート・オッペンハイマーとともに最初の原爆開発に携わったノーベル賞受賞者のルイス・アルバレスは、彼女にとって「祖父のような存在」だったが、それでも彼女は原子力に否定的な考えに傾いていた。
だが、彼女はカリフォルニア大学サンディエゴ校を卒業した後、1999年にパリへ移り、ESCPビジネススクールで修士号を取得した。その後は現地で8年間、国際金融の仕事に就いた。フランスでは、誰もが原子力を「クリーンで信頼できる地球温暖化対策」として支持していたと彼女は言う。そうした経験を経て、彼女は父の才能を生かそうと決意し、バークレーに戻った。



