上場計画と安全性の主張、住民の賛否が交錯
リチャードは、外部からの出資を得るまでの間、自身の退職資金を元手にDeep Fissionを立ち上げた。初期投資家の1人で、小規模なエンジェルファンドを運営するパブロス・ホルマンは、原子炉を地下のボアホールに設置するDeep Fissionの方式が、規制審査の迅速化と早期導入につながる可能性に驚いたという。彼はこの発想を「規制の盲点を突くもの」と表現する。
ホルマンは10年前、ビル・ゲイツが支援する原子炉企業TerraPowerで設計に携わっていたが、そのTerraPowerでさえ、設立から18年を経た2026年3月になってようやく、NRCから出力840メガワット級原子炉の建設認可を取得した。同社の原子炉の稼働開始は2032年になる見通しだ。
ミュラー親子は、会社の上場計画も急ピッチで進めている。2025年、リズはDeep FissionとDeep Isolationの両社を、上場済みのペーパーカンパニーと逆さ合併させる動きを主導した。両社は近く上場する見通しだ。Deep Fissionの顧客候補としては、ニューヨーク市の消費電力を上回る規模の合計800基・総出力12.5ギガワット分の原子炉について、データセンター建設企業が関心を寄せているという。「彼らが別の選択肢に流れる前に、需要に追いつく速度で建設しなければならない」とリズは語る。親子はこのほか、軍事基地向けのマイクロ原子炉の開発を進める米国防総省の案件にも照準を合わせている。
万が一、事故が起きたとしても、それほど危険なことにはならないとリチャードは主張する。彼は2021年、4人の地球物理学者と共著した論文で、地下1マイル(約1600メートル)に埋設した原子炉の1基が地震に見舞われたとしても、放射性物質が岩盤の中を1000フィート(約300メートル)移動するまでには50万年かかり、地下水の汚染にはつながらないと試算した。「ボアホールがすべてを解決する。原子炉にとって、1マイル分の岩盤に包まれた場所ほど安全な場所はない」と彼は語る。
カンザス州パーソンズで広がる、住民の賛否と地元指導者の反応
ただし、米カンザス州パーソンズの住民全員がこの計画に納得しているわけではない。住民の1人マージョリー・レイノルズは2026年2月、Deep Fissionの計画への反対を結集するために自ら開いた住民集会で、集まった少人数の聴衆を前に、「リスクを引き受け、その結果を背負って生きていくことになるのは、私たちのほうだ」と訴えた。
しかし、この用地は原子力関連施設の立地を前提に用途指定されている。そのため、Deep FissionがDOEと州から承認を得てしまえば、「これを止める道は実質的に残されていない」と、グレートプレーンズ産業公園の事務局長ブラッド・リームズは語る。
地元の指導者の中には熱意をもってこの計画を歓迎する声もある。市政委員で元市長のトム・ショーは、「これはパーソンズにとって、世代をまたぐような大きな機会だと見ている。私たちは本当にこれを受け入れる姿勢を持つべきだ」と話す。
ミュラー親子は当然ながら、地下に設置する原子炉で使い終えた燃料棒の安全な処分方法もすでに考えている。リチャードによれば、彼らは、使用済み燃料棒を穴の外に引き上げるのではなく、セメントと岩石を混ぜた材料を流し込み、そのまま地下に封じ込めるのだという。「地球ですら、そこにあることに気づかないほどだ」と彼は語った。


