気候変動の研究から、廃棄物処分事業を経て発電事業へ
だが、Deep Fissionの構想は最初からあったわけではない。引退後のリチャードは、リズとともに気候変動を研究する非営利団体を立ち上げた。かつては気候変動に懐疑的だった彼も、やがてそれが現実の問題だと認めるようになり、排出削減に最も有効なのは、米国などの先進国では原子力を使うこと、中国では石炭から水圧破砕で採取したシェールガスへの転換を進めることだという結論に至った。
シェールガスの温室効果ガスの排出量は石炭の半分だからだ。そこでミュラー親子は、シェル・オイルの元社長と組んで「Global Shale」を立ち上げ、武漢大学の研究者らとともに中国で試験掘削を行おうとした。だが、中国当局がその計画を阻止した。それでもリチャードの起業熱は冷めなかった。「もっと柔軟に、もっと速く動くために営利企業を立ち上げる。その面白さに私は夢中になった」とリチャードは語る。
彼は、地質学や掘削技術についても多くを学んだ。そして、米エネルギー省(DOE)が核廃棄物のボアホール処分を検討していると聞いた時、ひらめきが走った。2016年、ミュラー親子は廃棄物処分に専念する別の営利企業「Deep Isolation」を立ち上げた。同社はこれまでに6000万ドル(約95億円)を調達しており、直近の評価額は2億ドル(約318億円)に達している。
Deep Isolationは2021年、地下0.5マイル(約800メートル)に掘った水平方向のボアホールに、使用済み燃料棒を収めたキャニスターを設置し、それを再び回収できることを実証した。親子の試算では、米国の原子炉から出るすべての廃棄物は2200本の穴に収まるという。
ただし、これを実現するには議会の動きが欠かせない。1987年に成立した核廃棄物処分法は、原子力発電への課税で積み立てられた510億ドル(約8.1兆円)の核廃棄物基金の用途を、ネバダ州ユッカマウンテンに計画されたまま建設されていない国家最終処分場に限定している。リチャードはこの法律を「欠陥のある」ものと見ており、議会がこれを覆さない限り、基金を別用途には使えない。その間にもDeep Isolationは2025年、ブルガリア政府およびクロアチア政府と組み、旧ソ連時代の原子炉から出た廃棄物の処理に取り組むことで、600万ドル(約9.5億円)の売上を計上した。
顧客の質問が転機となり、Deep Fissionが2022年誕生
2022年、リチャードはボアホールを稼働中の原子炉用に活用できないかと検討し始めた。きっかけは、廃棄物処分の見込み顧客から、新品の燃料棒をボアホールに誤って入れた場合に、自発的に持続する核分裂の連鎖反応である「臨界」に達し得るかと問われたことだった。
リチャードの結論は、標準的な燃料集合体だけでは臨界に達することはないが、ウランを追加すれば達し得るというものだった。そして最も興味深かったのは、仮に臨界に達したとしても、周囲の岩盤が圧力と温度を封じ込めるため、危険は最小限にとどまるという点だった。こうしてミュラー親子はDeep Fissionを立ち上げた。「まるで宇宙が私たちに何かを告げているようだった」とリズは語る。


