主導権を握っているのは中国
中央アジアには資源があり、中国はそれを必要としている。だが、その燃料が輸送されるパイプラインを建設し、資金を提供したのは中国だ。中央アジア諸国が天然ガスを生産していても、東向けの唯一のパイプラインが中国によって建設され、費用も同国が負担している場合、契約条件は中国側が決定することになる。
米ハーバード大学のナルギス・カセノワ博士は筆者の取材に対し、イラン情勢の収束後に中央アジアの経済的影響力が拡大する可能性は「低い」と語った。その上で、「大局的に見れば、米国とイランの対立は、中央アジアにおける中国の役割と影響力を強めることになるだろう」との見解を示した。
しかし、誰もがこの状況を西側にとって絶望的なものだと見なしているわけではない。一部の専門家は、中央アジア諸国政府は現在どの国にも支配されておらず、この地域の歴史を鑑みると、中国を勝者と断じる前に慎重であるべきだと指摘している。
その見解を裏付ける証拠は確かに存在する。カザフスタンは欧米からの投資を積極的に誘致してきた。米国の石油大手シェブロンやエクソンモービルが進出したのは、決して偶然ではない。カザフスタンはロシアや中国の支配から逃れるため、地中海や欧州へと続く西方面への「カスピ海回廊」にも投資してきた。
とはいえ、その戦略には弱点もある。カスピ海回廊は確かに存在するが、輸送量は中国のパイプラインが東方面に輸送する量のほんの一部に過ぎない。カザフスタンは価格交渉を行い、買い手同士を競わせ、より有利な条件を引き出すことができる。しかし、10年以内に別の顧客向けの新たなパイプラインを建設することはできない。中国の社会基盤投資は、個々の契約や価格変動サイクルを超えて持続する依存関係を生み出している。
投資、社会基盤資金調達、長期契約を通じて、真の対抗策を構築する機会はまだ失われてはいない。だが、中国がパイプラインを1キロ完成させるごとに、その幅は狭まっていく。スリランカでの債務のわなやアフリカでの計画の失敗など、中国政府が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」が他国で残してきた記録は、中央アジア諸国政府が中国の資金に巻き込まれることを警戒する理由となっている。他方で、他国にはまねできない規模と資金力こそが、中国に優位性を与えているのだ。
先述のマニング上級研究員は、「欧州はロシアのエネルギー供給について誤った安心感に浸っていたが、ウクライナ侵攻によってその幻想は打ち砕かれ、今もなおその代償を払っている」とした上で、次のように指摘した。米国は世界最大の産油国かもしれないが、「石油は国際市場で取引されていることを忘れてはならない。多くの人がガソリンスタンドでそれを改めて実感している」
ホルムズ海峡の情勢は、いずれ落ち着くだろう。これまでもそうだった。だが、中央アジアで起きている事態の原因をイラン情勢に求めるのは間違いだ。中国は2006年にトルクメニスタンと初のパイプライン協定を締結し、2009年までには中国の各都市へガスを供給していた。これは、欧米の政策立案者の多くが中央アジアに目を向け始めるより前のことだった。
実際、中国の戦略は功を奏した。中央アジアには石油・ガスの豊富な埋蔵量と地理的条件が備わっており、中東が混乱した際に世界の代替エネルギー供給源となる可能性を秘めている。中国はこうした好機を捉えてパイプラインの建設を進め、燃料供給源の選択肢を広げると同時に、構造的な経済的優位性を確固たるものにした。これは、西側諸国にはない長期的な戦略だ。


