Heartlandが標準的な診療プロトコルを持ち込み、KKRなど大手投資家が目をつける
ワークマンが第一線を退いた後も、歯科業界には統一された診療基準がほとんど存在しない。ある歯科医は、ほぼすべての患者に対して虫歯が見つかれば、削って詰める治療を勧める。一方で別の歯科医は、そこまで踏み込まず、フロスをもっと使うよう助言するだけかもしれない。歯周病についても、ある医院では積極的に治療するのに対し、別の医院では十分な診断すら行われないことがある。
「歯科業界ほど指標がない業界は、ほかに思いつかない。本人さえ満足していれば、何をやっても通ってしまう」とワークマンは話す。
ワークマンは、そうしたやり方にどうしてもなじめなかった。そこでHeartlandが持ち込んだ答えがデータだった。所属する歯科医は、詰め物やクラウン、根管治療といった処置をどんな状態のときに行うべきかを定めた標準的な診療プロトコルに従う。会社はそのうえで、新規患者のうち何人が歯周病の検査やX線撮影を含むフル検査を受けたか、また診断結果が患者集団全体として想定される範囲に収まっているかといった日常的な指標を追跡している。たとえば、ある歯科医が新規患者の84%にしかフル検査を行わず、歯のクリーニング程度で済ませていれば、Heartlandの社内レポートはその差を問題として示し、なぜ100%でないのかを問いただす。
Heartlandの歯科医には基本給が支払われるが、これは患者を診療して生み出す売上に対する前払いのような仕組みだ。売上が基本給の4倍を超えると、その分の25%を受け取れるようになる。売上が増えるほど、この取り分の比率も上昇し、平均すると、その割合は約32%に達するという。自分が所属する医院の収益性が高ければ、四半期ごとの利益配分を受け取ることもできる。会社側によると、Heartlandの歯科医の平均年収は31万8000ドル(約5056万円)で、米国歯科医師会の一般開業医の約20万8000ドル(約3307万円)を大きく上回る。
歯科業界は、米国内の売上高が1800億ドル(約28.6兆円)にのぼる巨大市場で、細かく分散し、景気にも左右されにくい。景気が良かろうと悪かろうと、人は歯のクリーニングに通うからだ。こうした特徴に、ウォール街のしたたかな投資家が目をつけるまでに時間はかからなかった。
ワークマンがHeartlandを立ち上げてから15年後の2012年、同社を21州375院へと拡大させた時点で、オンタリオ州教職員年金基金が、Heartlandの事業価値を13億ドル(約2067億円)と評価して大規模な出資を行った。その6年後、ワークマンが36州800院まで広げた段階で、KKRがオンタリオ州教職員年金基金から評価額28億ドル(約4452億円)で同社の経営権を取得した。
事業の売却以降は、クラシックカーの収集と慈善活動に力を入れる
事業を売却して以降、ワークマンが力を入れてきたのは、クラシックカーの収集と慈善活動だ。著名な自動車イベント「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」の常連としても知られている彼が所有する1937年製ブガッティ Type 57Sは、2016年にクラス最優秀賞を受賞した。2023年には、妻とともにノースカロライナ州のハイポイント大学に3200万ドル(約51億円)を寄付し、「Workman School of Dental Medicine」を設立した。
ワークマンの不動産事業WMG Developmentは今や、歯科医院以外にも事業領域を広げている。最近手がけた案件には、チポトレやMavis Tire、フロリダ州サラソタの「Waldorf Astoria Residences」、同州サンフォードの大型KFCなどがある。また、2025年には、メジャーリーグ球団タンパベイ・レイズの約10%を、球団価値を17億ドル(約2703億円)と評価した取引の一環として取得した。
ワークマンは今でも、多くの時間を割いてHeartlandのことを考えており、同社に入ってくる新しいアイデアと強い野心を持つ若い歯科医らに助言をしていると話す。「彼らはたぶん、私が10年前にやったのと同じ失敗をすることになる。でも、そうする必要はない」と彼は言う。
「歯科医院は、普通にやっていればそれなりに利益は出る。歯科医が破産する道はいくらでもあるが、実際にはそれは簡単ではない。複数のまずい判断を重ねないと、そこまではいかない」と彼は続けた。


