食&酒

2026.04.19 10:30

元Appleエグゼクティブが10年かけて辿り着いた「和食のため」のワイン

Xander Soren Wines

Xander Soren Wines

友人を集めて貸し切った鮨屋のカウンターで、持ち込んだカリフォルニアワインを披露した。ツケ場を仕切る職人、ソムリエにも味見してもらったが、食事をともにしたすべての人が笑顔で満たされた。

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グラスに近づくと香るバラのニュアンス。Xander Soren Wines(ザンダー・ソーレン・ワイン)のソノマコースト ピノノワール 2022年。深い緑のラベルが印象的なそのボトルは、数日前のメディアブリーフィングで手渡されていたものだった。

鮨をはじめとする日本食と日本文化を愛するザンダーは、元はテクノロジ業界の人物だが、そのこだわりは深い。日本食を楽しむための赤ワイン。

繊細な鮨ネタの味わいを邪魔せず、生かしてくれる赤ワイン。刺激よりも旨みが先行するそのワインを作った人物は、実にユニークな経歴を持っていた。

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音楽と技術の人

「ザンダー・ソーレン」という名前を聞いても、ワイン愛好家にとって馴染みは薄いだろう。しかし彼の前職を聞けば、IT業界の人間なら即座に反応するはずだ。アップルに21年間勤務し、スティーブ・ジョブズの下で、iPod、GarageBand、iPhoneの着信音──つまり音楽とテクノロジーが交差するプロジェクトの最前線で、アップルをリードしていた人物だ。

シカゴ生まれでウィスコンシン大学でポリティカルサイエンス(政治学)を専攻しながら、日本の芸術と歴史の講義に通い続けた。子供の頃から黒澤明に魅せられ、版画と陶芸に心を奪われた。もちろん、当時の米国で流れていたアニメとの縁も無視できない。

2001年にアップルに入社し、翌年初めて日本を訪れた時は、長年の憧れの地に心躍った。そんな彼が日本に降り立ち、東京の街を巡ってみると、なぜ自分が日本文化を愛しているのか。言語化はできなくとも、心の中ではすでに答えが出ていたと彼は言う。

「なぜ自分がずっと日本文化を愛してきたのか、すぐに感じることができた」

筆者のようなテクノロジーを主戦場とするジャーナリストとの接点は、2011年1月、サンフランシスコのステージでスティーブ・ジョブズが初代iPad版GarageBandを世界に披露した時、完成したソフトウェアをジョブズの目の前で披露した時のこと。

このデモンストレーションを担当したのがザンダーだった。この基調講演から6カ月後、ジョブズは逝去することになるが、ザンダーはその後も10年以上アップルに留まり、世界中をGarageBandの公式スポークスマンとして飛び回った。そんな中で、最も頻繁に訪れた国が日本だった。

アップルでGarageBandの公式スポークスマンもと務めたザンダー・ソーレン(Xander Soren Wines)
アップルでGarageBandの公式スポークスマンもと務めたザンダー・ソーレン(Xander Soren Wines)

2012年の一樽

「カリフォルニアに住んでいるのだから、大好きな日本料理に合わせることを前提としたワインを作ったらおもしろい趣味になるんじゃないか」──そう思いついたのは2012年のことだ。最初のワインは25ケース、約300本。一樽分だった。

以来、日本に来るたびにシェフやソムリエに飲んでもらい、フィードバックをもらい続けた。ブランドを正式に立ち上げる何年も前から、“試験と改善”のサイクルを回し続けた。彼の人生哲学は「常に改善し続けること」だという。

かつてアップルが日本企業に学び、洗練し、徹底してきた哲学を、ワインづくりの中で活かしながら、自らのワインを作り続けてきたのだ。とはいえ、その最初のヴィンテージ(幸運なことに最後の数本のうちの1本を味わうことができた)から、控えめで主張を強く持たないながらも、一方で驚くほど複雑な味わいを持っていたことは記しておきたい。

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編集=安井克至

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